5:名無しNIPPER
2019/06/11(火) 12:30:37.90 ID:8Kxlpx7EO
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
彼女は笑っている。悩みなんて無さそうに、辛いことなんてまるでないかのように。
思えば、僕は彼女の異変に気付くことが、あまり得意ではなかったかもしれない。それはそもそも、彼女がそういう態度を取るのがうまかったとか、暗い印象が彼女には無さすぎたとか、そんな理由もあったかもしれない。彼女は、僕よりもすごい人だ、なんて意識が漠然とある。
だからあっさり信じてしまった。違和感は勘違いで、彼女は僕に対して嘘はつかないと思っていて。
「ならいいんだ」
「うん」
そういうところが、嫌になる。優しさゆえの嘘だとか、いくらでもありえそうな選択肢はあったのに。狭い思考では、そういうものを見ることができなかった。
――完璧な人になりたかった。
自分の低い能力が許せなかった。なんでもっとできることがないんだと、悔しかった。
「毎日が楽しいね」
そういって彼女は笑った。
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