4: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:34:26.83 ID:l6pE73h60
  
  さーて、と大洗の西住隊長の元へ向かい挨拶すると、彼女は「勉強させていただきました」と言ってくれた。 
  それが嬉しくて、私は少しだけ照れ隠しに顔を逸らした。 
  
  フィアットから食材やパスタ鍋を運び出し、ペパロニとカルパッチョの指揮でうちの生徒たちが次々に料理を完成させる。 
5: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:35:39.04 ID:l6pE73h60
  
  せっかくなので西住と話をしてみると、驚くことがあった。 
  私と同じく転校組の彼女は、てっきり大洗女子の戦車道復興のために招聘されたのだと思っていたが、そうではなく、むしろ戦車道から逃げるために転校を選んだとのことだった。 
  
  しかし今は戦車道を楽しめているのだ、と心なしか自慢げに言う彼女の姿は、とても好ましかった。 
6: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:37:02.36 ID:l6pE73h60
  
  宴会が終わって、大洗の連中と別れて会場を離れると、残った食材で二度目の宴会を始めた。 
  今度は、アンツィオの生徒だけだ。 
  
  あの場では言えなかった言葉を口にしてみると、ペパロニたちが「わたしもっすねー」と同調して、私は少し安心した。 
7: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:39:39.37 ID:l6pE73h60
  
  目覚めると、背中に柔らかな感触があった。 
  
 「ん〜……?」 
  
8: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:42:21.73 ID:l6pE73h60
  
  二段ベッドの柵から首だけ出して下を覗くと、ペパロニが幸せそうな表情でかーかーと眠っていた。 
  
  彼女を起こさないようにゆっくり階段を下り、クローゼットからアンツィオの制服を取り出す。 
  さっと着替えて、机の横に置いた籠からポーチを手に取ると、私は部屋を出た。 
9: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:43:53.11 ID:l6pE73h60
  
 「今日は遅いっすね。もしかして朝練はなしっすか? だぜ」 
  
  顔を上げたパネトーネが言う。 
  
10: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:46:13.73 ID:l6pE73h60
  
 「あのな、お前たち、悔しいけど我々は負けたんだ」 
 「幸い、今年は無限軌道杯も復活する。負けは負け。そのことをきっちり認識して、前に進まないとな」 
  
 「ドゥーチェ、おかしくなっちゃったんすか?」 
11: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:47:52.83 ID:l6pE73h60
  
 「私たち、昨日、大洗と試合をしたよな?」 
  
 「してないっす」「夢じゃないすか? だぜ」 
  
12: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:50:07.82 ID:l6pE73h60
  
  血の気が引くのを感じた。 
  
  ポーチもそのままに、二人へ背を向け廊下を駆け戻る。 
  
13: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2019/07/13(土) 21:53:34.81 ID:l6pE73h60
  
  私の想像に反して馬鹿なことというのは起こるもので、時間が巻き戻ったのはカレンダーだけの話ではなかった。 
  スマホでニュースサイトを眺めても、アンツィオのみんなに訊いてみても、いま私がいる時間は大洗との試合の一週間以上前とのことだった。 
  
  どうやら私は、タイムスリップというやつを体験してしまったらしい。 
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