【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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24:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 04:11:13.01 ID:VQj+6fZHO


「……こんなところにいたのか」


 夏樹の母から緊急の電話を受けたプロデューサー。どうやら夏樹は何かトラブルを起こし実家を飛び出したらしい。
 法事で立て込んでいる母や家族を捜索に出す訳にもいかず、「私が探してきます」と断りを入れてファミレスを出た彼は、実家からほど近い海岸線の空きスペースに車を止めた。

 海岸線を行くと小規模な砂浜が姿を現し、その砂浜へと続くコンクリートの階段には、道路を背にして座る女が。さらにその近くには、どこか懐かしい原付バイク、空色のカブが止まっていた。


「プロデューサーさん、わざわざ戻ってきたのかい?」
「……おかげさまでな」


 階段に座っている夏樹。プロデューサーに背を向けたまま小声で呟いた。


「いいバイクだよな、カブ」
「だろ? アタシが好きなバイクの一つさ」


 あえて追求はせずに、彼は夏樹の隣に腰を下ろした。


「どのみち決着はつけなくちゃならなかった。だから、プロデューサーさんにはホントに感謝してる」
「……」
「でも、やっぱりダメだったよ……」


 寄せては返す波。それをただぼーっと眺める彼女は、やがてひとりでに語り出す。


「アタシはじーさんが好きだった。ロックなじーさんでさ、あの家族を一人で纏めてた。何が起きても動じない、最後には快活に笑ってるような人だった」


――でも、そんなじーさんが死んで何もかも変わっちまった。
 ただ事務的に、悲しむ暇もなく過ぎていく慌ただしい時間……。
 みんな死んだじーさんの存在はどうでもよくて、じーさんがいない世界に生きてる。

 どうでもいいんだ。あいつらがじーさんの存在を忘れたように、アタシだって「遺産」とか「相続」とか「土地」とか、そんな話はもうウンザリなんだ。
 でも見てみろ、じーさんが死んでもうしばらく経つのに、奴らはどこからともなく集まってきては金の話ばかり。

 これ以上じーさんから貪りとってどうするつもりだ? 忘れたんじゃなかったのか?

 だからアタシは、こんな街に戻ってきたくはなかったんだ。

 だからごめんよ、プロデューサーさん。あんたを巻き込んで、迷惑かけて……。
 きっとアタシはあの家族にとってお荷物以外の何者でもないんだ。現に、こうして誰一人としてアタシを追ってこなかった。

 ホントにごめんな――夏樹はそう言って足元の小石を掴み、砂浜めがけて放り投げた。


「……だから、飛び出してきたのか?」
「そうさ。『金の亡者どもはさっさと失せやがれ』って捨て台詞吐いて出てきたよ。アタシはあの親戚の奴らが大嫌いなんだ」


 彼女が実家に帰りたくなかったのは、この法事の際に「亡者」が集まって来るから……。だから、どんな理由をつけても回避したかったのだ。
 仕事を無理矢理入れようとしたのも、つまりはそのような理由があってのことだった。






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