白雪千夜「足りすぎている」
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9:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:01:50.98 ID:QXbKSZYO0
 大方、歯の浮くような誘い文句が矢継ぎ早に飛んでくるのだろうと思っていた。
 私のような魅力の無い者に、どのような褒め言葉を繰り出してこれるものかと、高を括っていたのは認める。

 しかし――少し意表を突かれたが、男の続く言葉にはある程度の予測はついた。

「……この家に仕えること。それが私の使命です」

 私はかぶりを振った。

「夢中になるというのは、余裕のある者のみに許された行為です。
 お嬢様をはじめ、黒埼の世話をすることは、私にとって夢中になるならない以前に、行わなければならないこと。
 今の私が持て余しているものなどありません」

 この男は、私を芸能界へスカウトしに来た。
 鬱屈した、漠然とした不満感をくすぐって、これまでどれほどの夢見る思春期世代の女子を誘い込んだことだろう。
 安いロジックに惑わされるほど、私は自分を見失ってなどいない。

「それで、今のあなたは幸せなのですか?」

 しかし、なおも男は、真っ直ぐに私の目を見て問いかけてくる。



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