渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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35: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:48:21.29 ID:clFucneV0



午前中に家を出て、懐かしの場所周辺を練り歩き、昼食を摂りまた練り歩く。

そのようにして一日を過ごすことを七度行ったとき、私の中で何かがぽきりと折れる音がした。

アイドルであった頃の私の足跡を辿れば辿るほど、当時は隣にいた彼の不在を否応なく思い知らされる。

馴染みの場所を歩けば、懐かしい顔に出くわすこともあれば、そうでないときもあった。

けど、全てに於いて共通していたのは、あるべきものがそこにないような欠落を感じることだった。

懐かしい顔に会えば、二日目のテレビ局の人との一件と同じく、身に覚えのない感謝をされるのが常だった。

もちろんそのどれもが、彼の仕事の範疇のものであったが、やはりというかなんというか、手柄は全て私個人のものになっていた。

なんで、気付かれないところまでカッコつけるかなぁ。

駅のホームにあるベンチにぺたん、と座り込んでため息を吐く。

一度弱気が押し寄せると、必死に抗おうとしても思うように心に火が灯らなかった。

立ち上がろうとしても、思うように足に力が入らない。

とっくに筋肉痛は癒えているはずなのに。

おかしいな。

唇を強く噛んで、私の底から湧き上がる何か堰き止めるも、耐えられたのは数秒だった。


外気との温度差で窓やらコップやらが汗ばむ現象を結露と呼ぶけれど、人間も心と外の温度が著しく異なれば、同じように結露するのかもしれない。

履いていたジーンズの紺が一層深まっていくのをただただ見送ることしかできなかった。



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