3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/24(火) 03:25:04.88 ID:FLJvNdsK0
〇
雑に肩を揺すられる振動で、私は覚醒を果たす。少し重たい瞼を持ち上げて、私の肩に置かれた手と、その伸びている方向を見やる。
そこには「お客さん、もう終点ですよ」と歯を見せるプロデューサーがいた。
急速に頭が回り始め、状況を理解した私はタクシーの運転手さんに詫びて、車から逃げるように出る。
私が降りたあと、数秒の間があって後部座席の扉がばたんと閉じて、タクシーは走り出し、遠ざかっていった。
「お疲れ、だよなぁ。朝からだったし」
「……ごめん。迷惑かけて」
「ん? ああ、俺は別にタクシーの人に呼ばれて出てきたわけじゃないよ?」
「え、どういうこと?」
「偶然、事務所の前にいたら、すーっとタクシーが来て、運転手さんと目が合って、後部座席に寝てる凛がいて……みたいな」
「それ、ほんとに偶然?」
「もちろん」
「コートも着ないで、こんな寒い中?」
「いや、さっきまではコートなんていらないくらいだったんだよ」
「さっきって?」
「三か月くらい?」
「そりゃそうでしょ。……はぁ、もう事務所入ろうよ。三か月くらい前と違って寒いし」
プロデューサーに先立って、事務所へと入る。
玄関を抜けて廊下を進んでいると、小走りで近づいてくる彼の足音が聞こえ、ほんの少しだけ歩幅を狭めた。
そして彼が私の隣に並ぶときに「でもさ」と声をかける。
「待っててくれて、ありがとね。嬉しかったし、疲れも吹っ飛んだよ」
にっ、と笑んで、軽く覗き込むようにしてプロデューサーの顔を見て、言う。
「なんかの役作り?」
返ってきたのは、期待に反して冷めたものだった。
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