15:名無しNIPPER[saga]
2020/01/11(土) 21:48:14.82 ID:uct5lrwh0
しかしわたしは消えなかった。魂を宿し付喪神となり、この世に留まり続けた。
わたしをこの世に留めたものは何なのか。
怨みなど抱いた憶えはない。そもそも怨めるほど彼女に肩入れした憶えなどないのだ。なにせ彼女はわたしの当初の持ち主ではなかったのだから。
この世に未練があるはずなのに、わたしの内側には果てのない虚無が広がるばかり。
その虚無こそが、おもちゃの人形として生まれたわたしに定められた末路であったのだろう。
未練を残し魂を宿したゴミたちは、人や人の営みを怨み、呪う。それが付喪神の一種たるものの性質という。
しかしわたしには怨念などない。あるとすれば諦念だ。おもちゃの人形として生まれたのだから、こうなることは避けられなかったという諦め。
だからわたしは、誰も恨むことも呪うこともなく、ふらふらと何十年も様々な町のゴミ捨て場をさまよい続けた。
目的などなかったはずだ。標的なんていなかったはずだ。
しるべのない旅の中で、わたしは彼女の存在を知った。
この世に生を受けた自由な人の身でありながら、わたしの諦念が共鳴を憶えた少女、中谷育。
別に取り憑きたくなったわけではない。ただふと、会ってみたい。そう思ったのだ。
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