25: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:31:59.76 ID:W4W9+UtG0
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 逢魔が時 
  
 学生寮・2号館・343号室 
  
 優しく額を撫でられて、私は目を覚ます。 
  
 「かな子……?」そんなに、寝苦しそうにしていたのかしら。 
  
 目を開けると見えたのは、かな子ではなかった。『キヨラさん』と呼ばれている幽霊。 
  
 今日は金縛りもなく、上体を起こす。キヨラさんの顔は同じ目線にあった。 
  
 口を動かしてみる。動いた。小さな声も出せた。 
  
 優し気な瞳はずっとこちらを見ている。輪郭はぼやけているのに、瞳だけはホンモノのように思えた。 
  
 かな子の様子を確かめる。かな子はぐっすりと眠っていた。聞きたいことは色々あるけれど。 
  
 「ここでは話せないわ」小さな声で呟く。キヨラさんは頷いたように見えた。 
  
 キヨラさんは微笑んでから、立ち上がった。ゆっくりと扉へ動いて行った。歩いた……というよりは動いた。キヨラさんは扉の前で止まると振り返った。キヨラさんの口が動く、待ってますよ……かしら。 
  
 「えっ……」漏れた小声を口で塞ぐ。かな子は起きていない、良かったわ。幽霊だものね、壁くらいすり抜けるものよね……こんなことでようやく幽霊だと理解した自分に驚いている。 
  
 不躾ではないけれど、幽霊に起こされるのは……それに。 
  
 「待ってますよ、ってどこよ……?」 
  
 一言だけ呟いてから布団へ潜る。眠りにつくまでに時間はかからなかった。 
  
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