29: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:34:58.64 ID:W4W9+UtG0
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 夜 
  
 木犀浪学園・大校舎1階・食堂 
  
 木犀浪学園で知りたいことがあるのならば食堂で聞き耳を立てればよい、と昔から言われているそうよ。聞き耳を立てて待っているほど悠長じゃないので、話を聞くことにした。かな子のおかげで1年生3人とテーブルを囲んでいる。かな子のおかげで有益な話が聞けそうね。 
  
 「見たこと……ありますっ。紗枝ちゃんと、一緒に……」 
  
 「休暇前の、いつやったやろうか?」 
  
 彼女達は237号室のルームメイト。髪型をツインテールにしている、小動物みたいな女の子が緒方智絵里さん。和服姿の女の子が小早川紗枝さん、私服はいつも和装だから学園内では有名人だったりするわ。 
  
 「連休前の木曜日に、お風呂の帰りだったような……」 
  
 「どこで見たのかしら?」 
  
 「見たんは、階段の踊り場どす」 
  
 「椅子に座ってて……ビックリしました。行く時はいなかったのに……」 
  
 「驚きましたなぁ、普通の人形やったのに」 
  
 「はい……全然怖くなかったのに」 
  
 「階段の踊り場の、椅子ね……」学園の階段の踊り場には必ず椅子が置いてある。昔の習慣の名残だってかな子が言ってたわ。エレベーターもない頃の、名残だって。 
  
 「見たのはその1回だけかしら?」 
  
 「うちはそうどす、智絵里はんは?」 
  
 「わ、わたしもです……」 
  
 「まゆちゃんは、どうですか?」 
  
 「もう一度……見てもいいですか」 
  
 「構わないわ、どうぞ」ビラを眺めているのは、佐久間まゆさん。部屋は121号室で、ルームメイトは3年生の涼宮星花さん。涼宮先輩は管弦楽部の夜の練習があるそうで、もう夕食は済ませてしまったみたい。 
  
 「やっぱり……見たことあります。お洋服が違いますけれど、寮の廊下に座ってました……」 
  
 「奏さん、どういうことでしょう?」 
  
 「私に聞かれてもわからないわ。佐久間さん、詳しく教えてちょうだい」いきなり寮の廊下に座っていたら、肝が冷えるわ。佐久間さんが大声で叫ぶことは……なさそうね。 
  
 「水色のお洋服を着てました……寮は私の部屋の近く、壁に寄りかかって座ってました」 
  
 「いつ頃見たの?」 
  
 「4月の始めくらいだと思います……授業が終わった時に」 
  
 「速水はんが見たのは、水色のお洋服どすか?」 
  
 「わたし達が見たのも水色じゃなかったような……」 
  
 「いいえ、違うわね。詳しくは覚えていないけど」水色ではなかったはず。よく見るとビラの写真と違うような気もする。 
  
 「誰かがお洋服を着替えさせたのかなぁ?」 
  
 「佐久間さん、人形はしばらく置いてあったの?」 
  
 「いいえ……お部屋に戻って、次に見た時にはいなかった……です」 
  
 「ねぇ、変なことを聞くけれど。人形は勝手に動き出すと思う?」かな子を含めて4人の視線がこちらに向かう。視線がこちらに来れば、考えていることは分かりやすくなる。 
  
 「そ、そんなことないですよっ、ね?」 
  
 「は、はいっ……ないと思いますっ」 
  
 かな子と緒方さんは同じ反応。人形が動き出すホラー映画でも思い出したような、嘘みたいな話を聞いたように。 
  
 「お洋服を着替えるのは難しいと思います……」 
  
 佐久間さんは私からすぐに目を逸らした。嘘をついているわけではなく、自分が気になることにすぐに意識が行ってしまうタイプみたいね。もう1人、口元はにこやかに笑っている。 
  
 「そないなことおまへん。どなたか、動かしとるんどす」 
  
 小早川さんも嘘はついていなそうね、結論も私と同じ。ただ、嘘はついてないけれど、どう思っているか分からないわ。京女の本心はわからないけれど、人形が動くという恐怖を消すためにこの態度をとっていることにするわ。 
  
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