37: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:40:14.24 ID:W4W9+UtG0
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 喫茶店ユリーズ・木犀浪学園前臨時店舗・控室 
  
 「曾祖母は、そう語っていたそうですわ」 
  
 まるで自分が体験したかのようにクラリスさんは語り終えたわ。幽霊ではなく、生きていた柳清良という女性の話。病に侵されていたけれど、誰にも優しい女性。イタズラ好きの一面もあった。学園のウワサ話と違うのは、彼女にハッピーエンドは来なかったの。 
  
 「直接聞いたわけではありません。真偽が入り混じることをお許しください」 
  
 「承知の上よ。あなたが嘘をついているようには見えないもの、信じるわ」全てが本当でなくても、嘘をついているようには見えない。私を作り話で騙そうとはしていない……はず。 
  
 「彼女は亡くなった後、敷地内で荼毘に付されました。遺骨は地元の四国へと送られましたが、どこへ埋葬されたかはわかっておりません」 
  
 「ホスピスの頃から幽霊として現れていたの、かしら」 
  
 「曾祖母がいた頃は安らかに眠っていたそうです」 
  
 「幽霊になったのは、その後?」 
  
 「跡地に学園が出来てからと聞いております」 
  
 「地縛霊とも思えないし、何故現れるようになったのかしら」 
  
 「詳しいことはわかりません。学園を守る守護霊となり天から再び遣わされたのだと、曾祖母は言っていたそうです」 
  
 「なるほど、ね」悪霊じゃなくて、私達を守ってくれると信じてもいいのかしら。 
  
 「今後会うことがあるのならば、どうか寛大に」 
  
 「そうは言うけれど、会わない方がいいわ。現れるからには理由があると思うの、聞いていいかしら」悪い存在ではなくても幽霊は幽霊。驚きたくもないし、『キヨラさん』にいつも心配されるような学園生活は送りたくないじゃない。 
  
 「どうぞ。私に答えられるならば」 
  
 「『キヨラさん』が待っているとしたら、それはどこ?所縁の場所とか、知らないかしら」 
 クラリスさんは顎に手を当てて考えている。表情は少しだけ変わった、微笑む以外の顔も出来るのね。 
  
 「お話した通り、学園とは関係のない人物です。彼女と縁のある建物も今はありません」 
  
 「そう……」 
  
 「その女性は敷地内ならば散歩が許されていました。荼毘に付された場所も残っているかもしれません。きっと、見つかるはずですよ」 
  
 「……わかったわ。探してみるわ」 
  
 「ひとつ、思い出しました。もう1枚、彼女が映っている写真があります」 
  
 「本当?見せてちょうだい」クラリスさんはまたアルバムをめくり始める。もう1枚の写真はすぐに見つかった。だって。 
  
 「なんで……この人形が」 
  
 「ご存知でしょうか。備品の一部は学園に引き継がれたそうですから」 
  
 「え、ええ。古い人形を扱う部活があるのよ、そこで見たわ」嘘をつく。そこでは見ていない。 
 「まぁ、それは素晴らしいです。彼女もその人形を大事にしていたそうですよ。その気持ちは脈々と受け継がれているのですね」 
  
 「そうみたいね」そうかもしれないけれど、今は違うような……あら? 
  
 「彼女を辿ることで縁も結ばれるでしょう。目に見えない糸は確かにあるのですから」 
  
 「ちょっと待って、何か……」 
  
 「お時間のようです。お手を」 
  
 クラリスさんに手を握られる。手の温かさが私にも伝わる。何か、それが不思議で。 
  
 「あなたのこれからに幸あらんことを」 
  
 「話を聞けて良かったわ。お茶もごちそうさま」手が離される。クラリスさんの表情はにこやかなまま。 
  
 ドアのノック音、ゆっくりと2回。ドアは開いて、榊原さんが部屋に入ってくる。 
  
 「お待たせしましたぁ、奏ちゃん、帰りましょう〜」 
  
 買い物袋を持った榊原さんに連れられて、私は部屋を出る。金髪の異邦人のお別れの言葉は、大仰だった。 
  
 「ご縁があれば、またお会いしましょう」 
  
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