52: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:54:00.12 ID:W4W9+UtG0
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 後日 
  
 学生寮・2号館・343号室 
  
 「奏さん、日直だから、先に行きますね」 
  
 「いってらっしゃい」 
  
 「遅刻しないでくださいね」 
  
 「わかってるわ、かな子」 
  
 最初から何もなかったように、少し退屈で堅苦しい時間が戻ってきたわ。 
  
 『キヨラさん』は今まで通り。一昨日、1年生が見たというウワサを聞いたわね。生徒にウワサが語り継がれなくなる、必要とされなくなるまで、このまま。私に会いに来なければ、それでいいわ。 
  
 かな子とは、あの日のことはあれから何も話していない。かな子は言いくるめられてくれたのか、何を言ってもはぐらかされるから諦めたのか、私にはわからない。会ったことと言えば……そうね、かな子がラベンダーのケーキに部活でチャレンジして、失敗したことくらいかしら。 
  
 酷い味がしたわね、お手洗いの芳香剤を食べているような……失敗は忘れましょう。 
  
 そう言えば、ユリーズという喫茶店は突然なくなってしまった。夜逃げのようにいなくなってしまったみたいだけれど、何があったのかしら。もう、確かめようもないけど。 
  
 「早いけれど、私も教室に行こうかしら」身支度を整えて、部屋を出る。廊下ですれ違った生徒に挨拶をしながら、教室へと向かう。 
  
 あの人形に煩わされることもなくなった。あの人形がどこにいるかというと、『可愛いもの愛好会』の部室にいるそうよ。西園寺さんが、写真を見せてくれたわ。真新しい真っ赤なドレスを着ていた。西園寺さんの同部屋の先輩が持って来たらしいけれど、派手過ぎよね。大人しく畏まるしかないのもわかるわ。 
  
 様子を見にいくのは……本当に大人しくなったのか、もう少し見極めてから、ね。 
  
 「おはよう」 
  
 「おはようございます、今日はお早いのですわね」 
  
 「おはよう、西園寺さん。偶には、ね」変わったことと言えば、西園寺さんとは仲良くなったくらいかしら。人形に話した転校の理由を覚えているかどうかは、はぐらかされてしまって聞けていない。あの時、西園寺さんの口から出た言葉が本心かどうかも聞いていない。でも、互いの弱い所を分かち合えた気がするの。西園寺さんのこと、見直したわ。 
  
 「奏さん、琴歌とお呼びくださいな。クラスメイトなのですから」 
  
 このやりとり、4月に良くした気がするわ。見直した結果、西園寺さんもかな子と同じで琴歌と呼ぶまで、繰り返すわね。 
  
 「わかったわ……琴歌いいかしら」 
  
 「はい、ありがとうございます」 
  
 「おはようございます……ふわぁ……」 
  
 「あら、白雪さん。朝弱いのだから、ぎりぎりまで寝ていればいいのに」 
  
 「それだと相原先輩が心配しますから……先生が来るまで机で寝ます。おやすみなさい」 
  
 「起きていた方が良いですわ。千夜さん、お話しませんか?」 
  
 「そうね、琴歌」 
  
 「呼び方……西園寺さんがそう言うのであれば、わかりました。そうさせてください」 
  
 「琴歌の言うことは正直に聞くのよね、あなた」白雪さん、お嬢様タイプに弱いのかしら。 
  
 いずれにせよ、人形の話はこれで終わり。 
  
 品があって芯の強いクラスメイトに、からかいがいのあるクラスメイトもいる、穏やかな学園生活は手に入れた。それに、ルームメイトにも恵まれたわ。この時間を心行くまで、タイムリミットが来るまで楽しむことにしましょう。 
  
 どんなモノにも邪魔はさせないわ。どんなことをしても……なんてね。 
  
 EDテーマ 
 メンダークス・アンクティア 
  
 歌 速水奏・三村かな子 
  
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