1: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 18:58:55.25 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子「ほたるちゃんほたるちゃん」
ほたる「はい。なんですか茄子さん」
茄子「お昼なんだけど、一緒に食べに行きませんか?」
ほたる「いいですよ。どこに行くんですか?」
茄子「ほら、近所に新しいラーメン屋ができたじゃないですか」
ほたる「ああ、あの噂の」
茄子「前から気になってたんだけど一人じゃ心細くて」
ほたる「茄子さんってあんまりそういうの気にしない人だと思ってました」
茄子「こう見えて恥じらいのあるうら若き乙女なんですよ、私も」
〜
ほたる「わぁ、すごい行列ですね」
茄子「待ち時間30分だって。ほたるちゃん、どうします?」
ほたる「私は少しくらい待ってもべつに……」ぐぅ〜
茄子「…………」
ほたる「……///」
茄子「……あっ、なんだか急に牛丼が食べたくなってきました。あら? ちょうどあそこの牛丼屋さんが空いてるみたいですね。やっぱりお昼は牛丼にしましょう♪」
ほたる「は、はい」
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2: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:00:37.16 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子「ほたるちゃんほたるちゃん」
3: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:01:47.13 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子「ほたるちゃんほたるちゃん」
4: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:02:23.95 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子「ほたるちゃん、ほたるちゃん」
5: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:03:14.38 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子「……ほたるちゃん、ほたるちゃん」
6: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:03:56.62 ID:3k7Y9koF0
☆
わたしたちの出会いは運命だったと、疑いもせず信じきっているのはおそらく世界で茄子さんただ一人だった。
それは安アパートの錆びた手すり、がたがた揺れる階段の上……
7: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:04:54.63 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子さんの部屋は六畳間ワンルームとは思えないほどたくさんの物で埋め尽くされている。
8: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:07:06.28 ID:3k7Y9koF0
☆
夏の、暑い日だった。
わたしたちはいつものように近所のお寺の境内へ涼みに来ていた。
9: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:09:29.59 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子さんにはいろんな特技がある。
10: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:10:52.98 ID:3k7Y9koF0
それから、たとえばゲームがものすごく下手。
テレビゲームもそうだし、将棋とか、オセロとか、いわゆる勝負事にめっぽう弱い。
わたしもどちらかと言えば下手な方だったけど茄子さんほどではない。
二人でマリオカートをすると大抵わたしがビリから3、4番目くらい。
茄子さんは10回連続で最下位なんてこともザラだった。
11: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:11:36.67 ID:3k7Y9koF0
☆
わたしたちの共通点。
それは雨の日が好きということ。
12: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:12:54.19 ID:3k7Y9koF0
そうしてわたしたちはよく雨の日に散歩に出かけた。
目的もなく、決められた道を行くわけでもなく、ただ気の向くままにぶらぶらと雨の中を歩いていく。
べつに会話が弾むこともないし、ただ二人並んでぼんやり散歩するだけだったけど、そんなイベントがわたしはなんだか好きだった。
茄子さんの隣で、傘を並べながら歩く。
それだけで不思議と心が浮き立ったのだ。
13: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:14:10.93 ID:3k7Y9koF0
☆
そういえばあのあと、茄子さんが『くらげくん』シリーズの劇場版一作目を借りてきたので二人で一緒に観た。
14: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:15:24.05 ID:3k7Y9koF0
もちろん、『火星の王子さま』も茄子さんと一緒に観た。
記憶にあるよりもずっと子供向けだったけど、意外にもけっこう楽しめた。
ただ、あの物悲しい結末だけは、子供の頃に感じた痛みとほとんど変わらない印象をわたしの心に再び刻んだ。
「……そっかあ」
15: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:16:15.53 ID:3k7Y9koF0
☆
あの小宇宙のような六畳間の空間は茄子さんそのものだった。
16: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:16:46.15 ID:3k7Y9koF0
☆
初めて茄子さんとお墓参りに行ったのはわたしたちが出会ってちょうど一年経った頃だった。
17: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:17:50.54 ID:3k7Y9koF0
人気のない山林の奥、ひらけた場所に墓場はあった。
といっても、べつに墓石や十字架が建てられているわけじゃない。
言われなければ通り過ぎてしまうような、何の変哲もないただの空地だった。
今、その上には雪の絨毯が敷かれていて……
18: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:18:57.87 ID:3k7Y9koF0
―――さく、さく、さく。
まるで違う国に来てしまったみたいに、ここは静かだった。
―――じゃく、じゃく、じゃく。
19: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:19:52.55 ID:3k7Y9koF0
☆
「ほたるちゃんほたるちゃん」
20: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:22:13.27 ID:3k7Y9koF0
☆
「――お先に失礼します。おつかれさまでした」
21: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:23:29.60 ID:3k7Y9koF0
……わたしたちがそれぞれ別の道を歩み始めたことについて、その具体的な経緯ははっきりと覚えていない。
気が付いたらわたしはこの街に暮らしていて、あのアパートの101号室は空っぽになっていた。
けど、わたしたちが別れることになった理由やきっかけを語るのは実はそんなに難しいことじゃない。
わたしに言わせればそれは単なるタイミングの問題。
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