1:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:36:48.82 ID:O0jAO63X0
※劇中劇的なお話になります。男役の子もいます。ご注意ください  
    
    
    
  タタタタ…  
    
  エミリー「はぁ……はぁ……」  
    
    
  隣藩の武士A「おい、いたか?」  
    
  隣藩の武士B「いや、こっちにもいねぇ。くそっ、どこへ消えやがった?」  
    
  隣藩の武士A「まあいい。なにせ相手は異人の娘だ。あの金色の髪は相当目立つ。どこに隠れようと無駄だ」  
    
  隣藩の武士B「そうだな。向こうから尻尾を出すのも時間の問題だ。無論、関所も固めてあるしな」  
    
  隣藩の武士A「よし。一旦引き上げるぞ」  
    
  タタタ…
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2:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:37:37.20 ID:O0jAO63X0
 エミリー「……ホッ」  
    
  エミリー(退いてくださいましたか……けれど、私はいつまで逃げ続けなければならないのでしょう……)  
    
    
3:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:38:09.05 ID:O0jAO63X0
 育「待て。お前たち、山賊か。そこで何をしている」 
  
 山賊C「なんだこの小僧?」 
  
 育「隣の茉莉藩の者だ。私用の帰りに、たまたま妙な男たちを見かけたものでね」 
4:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:38:39.83 ID:O0jAO63X0
 育「良かった。それじゃあ、頭を伏せてこっちに」 
  
 エミリー「はい!」 
  
 山賊D「あっ、こいつ!」 
5:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:39:17.19 ID:O0jAO63X0
 育「させない!」キィン! 
  
 ギュッ 
  
 エミリー「えっ――」 
6:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:39:57.41 ID:O0jAO63X0
 育「悪いね」スッ 
  
 キィン キィン 
  
 山賊A「何!? 左手に小太刀……!?」 
7:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:40:27.56 ID:O0jAO63X0
 ――関所 
  
  
 隣藩役人「なるほど。道中に出くわした山賊を成敗したか。見事じゃぞ若者。きっと茉莉守様もお喜びだろう」 
  
8:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:40:59.46 ID:O0jAO63X0
 茉莉藩役人「ふう……人助けとはいえ、知り合いを欺くのは少々気が引けるな」 
  
 育「ごめんなさい……それと、ご協力感謝します」 
  
 茉莉藩役人「構わんよ。それに、我らの殿だって同じ状況ならそなたと同じことをしただろうからな」 
9:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:41:31.06 ID:O0jAO63X0
 育「ごめんね。君を助けるためとはいえ、縄で両手をしばったりなんかして」 
  
 エミリー「いえ。お気遣いありがとうございます。足の疲れも、関所で少し休んだのでもう平気です」 
  
 育「城下までは一本道だけどまだかなり距離があるから、疲れたらすぐに言ってね。それに人通りも少ないし何が起きるかわからない。拙者から離れないでね」 
10:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:42:11.56 ID:O0jAO63X0
 育「ところで、エミリー殿はどうして日本に? 隣藩の役人に追われていたようだし、何か事情があるみたいだけど……」 
  
 エミリー「はい。長い話になりますが……私の両親は、故郷英吉利で町医者をしておりました。それが二年ほど前から、自分たちの培った医学を諸外国に広めるべく世界を旅して回っていたのです」 
  
 育「そうだったんだね。なんて立派な……」 
11:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:42:44.29 ID:O0jAO63X0
 ――茉莉城 
  
  
 育「――ということで、身の危険にあると思われるエミリー殿のご両親を見つけ出していただきたいのです」 
  
12:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:43:23.92 ID:O0jAO63X0
 ――城下町 
  
  
 エミリー「そうですか。育吾郎さまのお父さまは、城下に働きに出ておられるのですね」 
  
13:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:44:02.30 ID:O0jAO63X0
 エミリー「ですが、私の国の言葉は日本のみなさんにとっては未知の言語……わからない言葉を話すのは失礼ではありませんか?」 
  
 育「そんなことないよ。わからないから知りたいって思えるんだ。拙者はもっと知りたいよ。エミリー殿のこと、英吉利のこと、西洋の医学のこと……」 
  
 エミリー「育吾郎さま……」 
14:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:44:47.18 ID:O0jAO63X0
 ――それから数日後 
  
  
 エミリー(村に滞在させていただくわけですから、お仕事もしっかりこなさなくては) 
  
15:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:45:13.65 ID:O0jAO63X0
 育「まったく……。エミリー殿、大丈夫?」 
  
 エミリー「はい。大丈夫です。お心遣いありがとうございます。けれど、少しびっくりしてしまいました」 
  
 育「ごめんね。あの子たちには拙者がきっちり言い聞かせるから」 
16:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:45:50.39 ID:O0jAO63X0
 ――翌日 
  
  
 村人たち「おお、あの異人の娘さん、木下さんちの畑を手伝っているのかい」ジロジロ 
  
17:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:46:23.07 ID:O0jAO63X0
 ひなた「……そのとおりだよ。農家の、それも女の子が、お侍さんを指導されている先生に剣の稽古をつけてもらえるなんて、とっても珍しいことだよぉ。あたしが頼み込んだんさ」 
  
 エミリー(ひなたさん……? なんだか寂しそうなお顔をされたような) 
  
 ひなた「エミリーちゃん、ちょっこし長い話になるけど、いいかなぁ?」 
18:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:46:59.89 ID:O0jAO63X0
 ひなた「村の裏手にあるあの山――芙美台山っていうんだけど、そこには昔から、蘇芳童子っていう女の子の姿をした鬼が棲んでるんだ」 
  
 エミリー「鬼……ですか? それは言い伝えなどではなく?」 
  
 ひなた「その鬼はね、10年に一度腹を空かせて山を下りてきて、美里恩村に住む男の子を一人さらって食べてしまうんだわ」 
19:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:47:36.52 ID:O0jAO63X0
 ひなた「その水で染めた布は、貴族に愛好される蘇芳って染め物に負けんくらいの綺麗な生地に仕上がって、とっても高く売れるんだよ」 
  
 ひなた「だからその49日間は、村人総出で機を織って染め物をするんだ。そして次の10年後までそれを少しずつ売って食いつないでいく……そうやってこの村は今日までやってきたんだって」 
  
 エミリー「そんな……では、村に実りをもたらすために鬼に生贄を捧げているのも同然ではないですか」 
20:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:48:12.04 ID:O0jAO63X0
 育「……そっか。ひなた殿から鬼の話を聞いたんだね」 
  
 エミリー「はい。とても恐ろしく、理不尽なことだと感じました。それにひなたさんは、お兄さんを……」 
  
 育「そうだね。10年前、ひなた殿の兄上は鬼に喰われて亡くなられた。拙者はまだ生まれていなかったけど、そのときの出来事はひなた殿や村の長老たちから聞いているよ」 
21:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:48:43.76 ID:O0jAO63X0
 ――村はずれの丘 
  
  
 育「この花なんだ」 
  
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