トップアイドルの天海春香さん
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1:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:00:24.90 ID:/ZuzgcCF0
私は春香ちゃんに憧れた。

元々、特にアイドルが好きだったわけじゃない。
けど人並みにテレビを見ていれば、それなりにアイドルの顔は見ることになる。
CMで、歌番組で、バラエティ番組で。
ドラマや映画、SNS。
雑誌で特集が組まれたり、グラビア写真が載ってたり。

普通に生きていればアイドルをこれっぽっちも目にしないなんてことは無理。
だから私も普通に、あちこちでアイドルの顔を見かけて。
それで普通に、可愛いな、綺麗だな、なんて思いながら、
時々クラスでアイドルの話題が出ると、当たり障りのない感想を言いながら、
自分とは全く無関係の、有名人たちだなって。
そんなふうに毎日思ってた。

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2:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:02:14.33 ID:/ZuzgcCF0
でもそんな毎日の中で、いつもどおりテレビを見てたとき。
流行りの歌番組に一人のアイドルが出演してた。

あ、また765プロだ。

以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:03:43.59 ID:/ZuzgcCF0
そうこうするうちにその子の出番が来た。
席を立ってステージに向かう時、コケた。

……大丈夫かな。色んな意味で。
緊張してるのかな。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:05:31.29 ID:/ZuzgcCF0
いつの間にか私は笑顔になってた。
体がリズムに合わせて自然と動いてた。
けどそんなことにも気付かずに、私はテレビ画面に夢中になってた。
すごくすごく楽しくて。
あんなに楽しい気持ちになったのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:07:27.24 ID:/ZuzgcCF0
それから私がアイドルの養成所に通うようになるまで、あまり時間はかからなかった。
両親からそこまで強く反対されなかったのは幸運だったかも知れない。

養成所のために部活もやめて、私はできるだけたくさんレッスンに通うようにした。
通い始めてすぐの頃は楽しかった。
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:09:42.16 ID:/ZuzgcCF0
けどもちろん、そんなに簡単じゃなかった。
デビューしたはずなのに、私の生活はほとんど何も変わらなかった。
もちろん仕事はいくつかあった。
でもそのどれもが小さいものばかり。
CDも売れはした。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:11:50.50 ID:/ZuzgcCF0
支えてくれた。
……そう言っていいのか、分からない。
始めは確かにそうだったと思う。
少し辛いことがあっても、春香ちゃんを観れば元気になれた。
「こんなことでへこたれない」
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:13:05.78 ID:/ZuzgcCF0
何度も観た。
録画した春香ちゃんの出演番組。
買ったライブの映像。
何度も観て、何度も観て、でもわからなかった。
私に何が足りないのか、わからなかった。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:15:43.83 ID:/ZuzgcCF0
完璧に歌えて、完璧に踊れた。
何が違うのかわからなかった。
私とこの子の何が違うのか、全然わからなかった。
いや、それどころか……私の方が上手いんじゃないかとさえ思えた。

以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:17:45.35 ID:/ZuzgcCF0
……やっぱりそうなんだ。
私の歌とダンスはあの子よりも上手いんだ。
それが証明されたんだ。

それに気付いてから、私のあの子を見る目は変わった。
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:19:01.96 ID:/ZuzgcCF0
私と何も違わないことを確かめるため。
私の方が優れていることを確かめるため。
そのために何度も映像を観た。

そんなことをしてどうするつもりなのか。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:20:15.32 ID:/ZuzgcCF0
トップアイドルの天海春香。

私は天海春香に憧れていた。

でもその感情は少しずつ、はっきりと変わった。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:21:15.95 ID:/ZuzgcCF0
もしかしたら天海春香は裏で何か……。
半ば本気でそんなことまで考えそうにもなった。
ただ、そんなことを考えそうになる自分が嫌になる程度には、まだ私の良識は残っていた。
でもいっそそんな良識も無くしてしまえた方が、寧ろ楽だったかも知れない。
それなら自己嫌悪に陥ることなんて無くなるのだから。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:22:29.48 ID:/ZuzgcCF0
時々、私の家にアイドル好きの友達たちが遊びに来た。
それは私にとって辛い時間だった。
だってその子たちはみんな765プロのファンだったから。
だから遊びに来るたびに天海春香の映像を観たがった。
断る理由を上手く思い付けない私は、どうしても一緒に観ざるを得なかった。
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:24:37.27 ID:/ZuzgcCF0
そんな毎日がどれだけ続いただろう。
「その日」は突然やってきた。
いつも通りレッスンのために事務所に行くと、事務員さんが話しかけてきた。
近々開かれるいくつかのオーディションの中にお勧めできそうなものがあった、って。

以下略 AAS



16:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:26:22.43 ID:/ZuzgcCF0
チャンスだ、と思った。
天海春香のすぐ近くで踊ることができる。
そうなればきっと、誰かが気付いてくれる。
天海春香よりも私の方が実力があるんだって。

以下略 AAS



17:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:27:40.67 ID:/ZuzgcCF0
オーディションに行くと、たくさんの希望者が集まっていた。
それはそうだ。
なんせ「あの天海春香」のダンサーになれるチャンスなのだから。
集まっていたのは、やはり彼女のファンが大半のようだった。
聞こえてくる会話からそのことはすぐに分かった。
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:29:48.96 ID:/ZuzgcCF0
私は他の誰よりも気合を入れてオーディションに臨んだ。
そして、合格した。
当然だ。
気持ちだって、実力だって、私は他の誰にも負けてなかった。
私以外にも何人か合格者は居るけど、その子達にだってもちろん負けてない。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:32:47.70 ID:/ZuzgcCF0
今日は天海さんが見学に来てくださいました。

そう言ったレッスンの先生の隣に立っていたのは、紛れもなく天海春香だった。
何度も画面越しに見た、「トップアイドル」。

以下略 AAS



20:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:35:03.00 ID:/ZuzgcCF0
レッスンルームの外の椅子にみんなで座って。
彼女が持ってきた手作りのお菓子を食べながら。

みんなの表情に、トップアイドルを相手にするぎこちなさがあったのは初めだけ。
徐々に、いつの間にか、みんな打ち解けていった。
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:36:42.77 ID:/ZuzgcCF0
どうしてこの人が。
こんなに普通なのに。
どうしてあんなに売れてるんだ。
私と何が違うんだ。
普通じゃないか。
以下略 AAS



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