22:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:21:30.80 ID:GKexH31W0
 「よう、久しぶりだな。8年かけてようやく立てたステージに挨拶、ってとこか?」 
  
 『そんなところよ。あんたはなにしてんのよ、こんなとこで。出演者とスタッフ以外は立ち入り禁止よ』 
  
 「そう堅いこと言うなよ。そうだな……かっこいい言い方をすれば、お前に会いに来た、ってとこだ」 
23:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:23:31.95 ID:GKexH31W0
 「……残念だったな」 
  
 『いいのよ。さっきこっそり全員の結果見ちゃったんだけど、私何位だったと思う? 103位よ、103位。最下位だったの。しかも得票数1。逆に気になるよね。私に1票入れた見る目のないバカは誰なんだろうって』 
  
 「確かに。相当なバカだろうな。なんたって才能無しアイドルを8年も担当してるのに結局放り投げて逃げるんだから。普通そこまで行ったら死なばもろとも、だよな」 
24:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:24:19.20 ID:GKexH31W0
 『でも、今のあんたならもう一回出来るんじゃない? プロデューサー。なんだか上手くいく気がする』 
  
 「そうか? そう言ってもらえるとありがたいな。ちょっと考えとくことにするよ。デカいイベントも終わって、どうせもう事務員のヘルプは要らないだろうしな」 
  
 『そうやって真に受けてまた私みたいに不幸な女を生み出すのよね、あんたみたいな奴って』 
25:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:24:56.45 ID:GKexH31W0
  今日はレッスンの見学だ。と言っても、アイドルのレッスンじゃない。 
  
  あのオーディションの後、事務員ヘルプの必要が無くなって、専ら雑用係になっていた僕の頭の中には、彼女の「もう一度プロデューサーをやってみる」という、アドバイスだかリップサービスだか何だか分からないものが常に漂っていた。 
  
  またアイドルプロデューサーをやってみたいという気持ちは無いということは無かったけど、よく考えたら歌が分からないアイドルプロデューサーなんて馬鹿げている。なんで今まで不思議に思わなかったのだろう。 
26:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:25:49.82 ID:GKexH31W0
  ちょうどトレーナーさんがレッスン室から出てきた。 
  
 「あれ、もうレッスン終わりですか?」 
  
 『いえ、少しだけ休憩です。この後プロデューサーがデビューさせる子を選びに来るって聞いたので、先におしゃべりでもして人柄を見ていただいたほうがいいと思いまして。もしかしてあなたが?』 
27:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:26:49.72 ID:GKexH31W0
 「1回失敗したんだから、2回目は許さないわよ。8年分の時間、きっちり返してもらうから」 
28:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:27:41.69 ID:GKexH31W0
  彼女の声が、初めて鮮明に僕の耳へと響いた。 
29:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:28:41.53 ID:GKexH31W0
  
  昔話が長くなったね。そろそろ今の話をしよう。この話は、そうだな……。俗に言うとすれば―― 
30:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:29:34.65 ID:GKexH31W0
  ――僕が「鼓膜を実装する」までの物語。 
31:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:30:35.28 ID:GKexH31W0
 以上です。ありがとうございました。 
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