30:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:07:57.60 ID:n4MKx+790
  ここで、一つボタンを掛け違えていたことに気付けば、何かが変わったのだろうか。 
  わからない。いや、きっと気付いていなかったはずがない。 
  言葉にこそ出来ないけれど、見逃してはいけない致命的な齟齬。それは確かに存在していたはずなのに、僕はそれに蓋をして、見て見ぬ振りを繰り返していたのだ。 
  
  だってそうだろう。世間には需要があって、それが何年も落ち込んでいないのは、とりもなおさず愛梨がアイドルとして求められていることの証左だ。そして、多くの人間が望んでいて、愛梨自身もそこに不満を抱いていないのなら、きっとこの方針でアイドルを続けていくことに間違いはない。 
  それが、正しいことじゃなくてなんだというのか。 
   
  思えばそれも、とんだ思い上がりだったのだろう。 
  そうして違和感を抱えていても、悩みや憂鬱を抱いていても、世間は一秒だって待ってくれないで、時間は先へ先へと進んでいく。そうしてどんどん、掛け違えはずれていって、いつしか正しさという名前を借りた服の形だって保てなくなってしまう。 
  もがいていた。あがいていた。 
  待ってくれと、少しでいいから止まってくれと、ずっと夜眠るときにそんな祈りを八百万もいる神様のどれかに当たらないかとがむしゃらに投げ続けていた。 
  そうでもしないとわからないじゃないか。僕がしていることは、本当に正しいのか。進もうとしている道は、過ちに繋がっていないか。 
  いつだって、少しだけでいいから、考えさせてほしかったんだ。 
57Res/91.81 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 
書[5]
板[3] 1-[1] l20