高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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◆jsQIWWnULI
2020/08/08(土) 19:26:19.97 ID:b+VIQ/E60
「でも、『でっかい猫の影』って、いったい何のことなんだろう?」
私はアリア社長が通ったであろうとなんとなく思った水路を、ゴンドラを漕ぎながら進む。
「ああ、それは、『猫の王国』伝説ですね」
ゴンドラに乗ったあやめちゃんが言う。
「猫の王国?」
耳慣れない言葉に、私はただオウム返しするしかなかった。
「はい。マンホームのハイランド地方に伝わる昔話に、猫の集会と言って猫だけの王国があるというものがあるんです。その昔話は、家から猫がいなくなったときは、猫が猫の集会に行っているときだという内容で、その猫の集会の主催者がケットシーという大きい黒猫らしいんです」
「へー。猫の集会、かぁ……」
「だから、アイ殿がおっしゃっていた『でっかい猫の影』というのは、このケットシーのことを指しているのだと思われます」
「なるほど。あやめちゃん、物知りなんだね」
「いえ、私が知っていたのは、私が小さい頃にたまたまおじいちゃんがこの話をしてくれたからなだけで……」
「でも、覚えていること自体が凄いよ。おかげで素敵な話を私も知ることができたし」
「そう言っていただけるのならうれしいです」
あやめちゃんは恥ずかしそうに微笑んだ。
「でも、その猫の集会ってマンホームのお話なんでしょう?アクアにもケットシー、いるのかな?」
「そうですねぇ。確かに言われてみれば、どうなんでしょう?」
会話をしながらもゴンドラを漕ぐ手は緩めない。最近の練習の成果が出てきているのか、こうやって少しおしゃべりしながらでもまっすぐにゴンドラを漕ぐことができるようになってきた。
しばらく静かな時間が流れていたが、突然あやめちゃんが何かを思い出したように言う。
「そういえば、アイ殿と私の先輩が出会ったのも、ケットシー探しがきっかけだったと聞いています」
「へぇ、そうなんだ。だったら、もしかしたらケットシーはいるのかもしれないね」
「はい。アイ殿の目撃情報を頼りに探したらしいですよ」
「アイさん、ケットシー見たことあるんだ」
「影だけらしいですけどね」
「そうなんだ……あっ!」
ゴンドラを漕いでいると、目の前にアリア社長とミニゴンドラが見えた。
「アリア社長ですね」
あやめちゃんもアリア社長の姿をとらえたみたいだった。
「うん」
アリア社長は私たちの姿に気が付いた様子はなく、そのまま右折して細い水路に入っていった。私たちを乗せるゴンドラも、アリア社長が入っていった水路の入り口に到着する。
その水路はとても狭く、どこまで続いているかわからないほどだった。奥の方は、今日は晴れているはずなのに妙に暗く、そのことが少し恐怖を感じさせた。
「……なんだか、少し不気味ですね」
あやめちゃんも私と同じように恐怖を感じたのか、そう言う。
「……行ってみようか」
「……はい」
狭い水路。船体をぶつけてしまわないように気を付けながら、ゆっくりと私たちも入っていった。
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