高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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◆jsQIWWnULI
2020/11/29(日) 18:45:23.10 ID:RCe5Jm+v0
昨日よりも涼しい風が吹いているなぁという感じが三日間連続で続いているということは、そろそろこの長かった夏が、私が火星に来てから初めて体験する夏が、終わりを迎え始めているのかと思うと、なんだか少しだけ切ない感じがして、オールを漕ぐ手が少し緩む。
「ゴンドラ通りまーす!」
十字の水路に差し掛かった私はゴンドラを減速させながら他の人に聞こえるようになるべく大きな声で叫ぶ。水路はなにもウンディーネのゴンドラだけが通るのではない。郵便屋さんのゴンドラやみんなの荷物を運ぶ運送用のゴンドラ、はたまた小さなおばあさんが運転する小さな小さな自動操作船なんかも通る、みんなの水路なのだ。
「ゴンドラ通りまーす!」
もう一度叫び、自分がここを曲がる意思表示をする。そうすることによって未然に事故を防げる確率が高まる。もう何十年と続いてきたこの街のルール。
何事もなく無事に水路を曲がりきることができた。私の厳踊らが渡りきると、すぐに八百屋さんのゴンドラが私とは反対方向に曲がっていく。ふと、近くにある橋を見ると、観光客らしき人が、さっきの一連の流れを興味深そうに眺めていた。ネオ・ヴェネツィアの人間からすれば、本当に何でもないようなただの日常風景。だけど、そうじゃない人たちからは、先ほどの流れが不思議に見えるのだろう。私も最初はそうだった。マンホームではまず見受けられない状況だから、戸惑いもあった。マンホームでは、何か乗り物を人が操縦するなんてことはないから。歴史の授業で習った、昔のマンホームの交通状況がこんな感じだったんだろうなと思ったことを、今思い出した。
そして、まだまだ自分はネオ・ヴェネツィアの一員に成り切れていない気がして、少しだけ寂しくなった。そんな気持ちを吹き飛ばすかのように、オールを強く握りしめて思いっきり漕ごうと手に力を籠める。しかし、それはしてはいけないことだと思い出して、慌てて手の力を緩めた。
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