アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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15: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:49:10.26 ID:qUczw4Pjo



学生時代は、暗黒だった。

そう言った方があまりにも早い。人によっては「そんな程度大したことないでしょ」なんて言うかもしれないが、ましてや俺なんて今は体格もいいし、皆信用しないのであまり語ろうとは思わないのだが。
俺の青春というのは、ほとんどが周りの学生達に黒く塗りつぶされた。精神的、肉体的ないじめに遭っていたのだ……詳細を語ることは辞めよう、目の前がぐにゃんぐにゃんに歪むほど具合が悪くなる。気分が悪い話なんてなかなか出来るもんじゃない。
今でも、そう今でもだ。子供達の集団から向けられる視線が恐ろしくて仕方がないことがある。今なら間違いなく勝てる、はずなのに、やっぱりどうして、睨まれると全身が硬直してしまって、背中からどろりとした汗をかいてしまう。

トラウマは克服できない。体の傷はいずれ癒えても、心に空いてしまった穴は一生塞ぐことはできない。

輝かしい学生時代なんてものはとうに失われ久しい。そんな思いをずっとしてみたかった、忘れていたからもう忘れたままでもいいと思っていた。できないならできないでも、今をそれなりに生きてやろうと思っていた。
今の言葉で言ういわゆるリア充みたいなものに偏見と羨望を持ったまま大人になった俺がやっと、ようやく、自らの手で掴み獲った青春というのが、俺にとっては───としまえんだった。


「ここ、は……」

暗闇の向こう側にぼんやりと浮かんでいた光を超えたと思ったが、俺がいたそこは、俺の知るとしまえんに違いなかった。
シンボルマークである『カルーセルエルドラド』が今日も炎天下に負けじとキラキラ輝いて回転している。周りは多くの客で賑わっており、誰もが楽しそうに笑みを浮かべて園内を回っている。ここがこうなんだから、プール側も絶対に盛り上がっているだろう。20あるスライダーは全て埋まっていて、みんなきっと心からの喜の表情で滑っていくんだろう。
それがなんだか自分の事のように嬉しく、ここには何よりも平和な時間が流れている。

ああ、そうだ。ずっとここにいたい、なんて。そう幻想を抱くくらいには、気分がいい。

「いてもいいんだよ」

と。

「え?」

「ずっとここにいていいんだ、君のための夢の国なんだから」

誰かわからないけれど、背後からそんな声をかけられる。誰から言われたかもわかってなかったのに、くるりと振り返ってから、俺はただ聞き返す。

「そんなこと……出来んの?」

「ああ、出来るさ、君が望むならば」

「でも、仕事もあるし……」

「気にする必要はないよ」

「嫁も……息子も娘もいるんだ」

「君には君の人生があるだろう?」

「あ、それに相方も」

「君がやりたいことをすべきじゃないかな」

こつ、こつ。
その人は───どんな顔かわからなかった。どんな人間が俺に語りかけているのか全くわからなかった。けれどそいつはこつこつと、地面のきれいに整備された石畳をこつこつと、ピカピカに磨き上げられた革靴で鳴らしながら歩いてくる。


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