高垣楓「あなたがいない」
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33: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:12:28.09 ID:Od9IjqsH0

 そして到着した告別式、僧侶の読経が響く。中に入ると、驚くほど人がいなかった。
 小さな祭壇に、社長さんやちひろさんなど事務所スタッフ数名、それからおそらく、彼のお姉さん。
 両手で十分数えられる人数。私は茫然とした。
 お姉さんと思しき人は、私の顔を見てわずかに会釈した。

 そうだ、あまり時間がない。
 わずかな中抜けしかできない以上、少ない時間の中で彼を惜しむしかない。
 祭壇に誘導され、遺影を見る。その姿はいつ頃の写真なのだろうか。
 社会人というにはまだ少しあどけない表情で、おそらく大学生の頃なのだと想像できた。
 私の知らない頃の、Pさん。
 そして、無垢の棺の中に眠っているだろう、私の知っているPさん。

 彼の顔を見ることが、怖い。
 そんな気持ちがよぎる。

 私は一歩、また一歩と、焼香台へ向かう。僧侶へ一礼し、遺影に向かう。
 焼香をつまむと、ひとつ、またひとつとくべていく。
 煙の奥で笑う、Pさんの表情。私はそれをしっかりと目に焼き付け、手を合わせた。
 願わくは、彼岸への旅路が安寧でありますように。そして、いつか私がそちらへ旅立つことがあれば。
 彼に、会えますように。

 そして、私はすぐにお暇をする。お姉さんに会釈をひとつ、社長さんとちひろさんにも会釈を。
 ちひろさんは落ち込んだ表情を浮かべたまま、私に頷き返した。
 結局彼の顔を伺うことは、しなかった。
 いや、できなかった。




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