ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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名無しNIPPER
[saga]
2020/09/21(月) 20:23:14.08 ID:amUbMXcr0
「……それで、結局何の話なんです?」
再び舌戦が再開されそうな気配を察し、先んじて質問をする。話の端々から判断するに、これまでの様な厄介事なのだとは思うが、師匠の方が積極的に介入しようとしているのは珍しい。
質問に答えてくれたのはライネスの方だった。紅茶のカップを弄ぶように摘まみあげながら、「さて、どこから話したものか」などと呟き、焦らすように目線を虚空に彷徨わせる。
「そもそもの切っ掛けは、魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)ということになる。あの時のことは覚えているかな?」
「魔眼蒐集列車、ですか」
当然覚えている。というより、忘れられるようなものではない。
魔眼蒐集列車は、吸血鬼――死徒、それも上級死徒の眷属によって運行される特殊な列車だ。師匠の"宝物"が盗まれた折に乗り込むことになった、現代に至ってなお伝説と名高い神秘。師匠は文字通り死にかけるし、サーヴァントやアインナッシュといった化け物には襲われるしで、良く生きて帰れたものだと思う。
正確に言えばその後も一度だけ乗る機会があったのだが、ライネスが"あの時"というからには、彼女自身も乗り込んだ一回目の方だろう。
「ああ。あの時、兄上がメルヴィン・ウェインズに借金をしただろう?」
「え……?」
簡単な確認作業をするような調子のライネスだが、自分には心当たりがなかった。
メルヴィン・ウェインズ――師匠のことを本名で呼ぶ、数少ない人間。
まさか知らない内に、師匠はあの調律師にお金を無心していたというのか。
そんな混乱をみてとったのだろう。師匠が助け舟を出してくれた。
「ライネスの言い方では思い当たらないのも無理はない。メルヴィンが家財を質草に方々からオークションの資金を捻出してくれたことだ」
「ああ、それなら――」
納得しかけて、しかし再び首を捻る。
師匠が言っているのは、オークションを引き伸ばすために競り合いに介入した時のことだろう。メルヴィンは電話一本で自身の何もかもを質にいれ、親友と呼ぶ師匠にベットしてくれた。だが、
「……あれ? でもあのオークションは結局、成立しませんでしたよね? なら、お金は払わなくて済んだんじゃ」
そう言うと、師匠は深く溜息を吐いた。それが自己嫌悪から来るものであることは、その時は分からなかったが。
後を引き取ったライネスは、師匠のその様子がおかしくてたまらないという風に、嗜虐に満ちた笑みを浮かべている。
「君ならその認識でもいいんだが、仮にも君主であるところの兄も同じ考えだった、というのは少々いただけない。愛すべき義妹に面倒事を押し付けていたツケが回ってきたというわけだ」
「どういうことです?」
「貴族同士での融資というのは、返せば終わりというものじゃないんだよ。その本質は金の貸し借りではなく、コネクションの結実にある。当然、貸した側が有利なね。"あの時、お前が困っているのを助けてやったのだから、一生恩に着て貰う"というわけさ。あちこちから電話一本で借金をする、なんて無茶をしたメルヴィンにもこれは当てはまる」
言われて愕然とする。メルヴィンとは事件の後に話す機会もあったが、あの飄々とした態度の裏側には、こちらに気を使わせないようにという配慮があったのだろうか。
そんな自分の狼狽振りに、ライネスは手を振りながら口の端を歪めた。
「ふふふ、ちょっと意地悪な言い方だったかな? 実際のところはそう大した問題でもないよ。あいつは兄上よりはよほど貴族だからね。借りる相手は出来るだけ選んだようだし、返した後の立居振舞も心得ている。そうだな、君の立場で例えるなら、この前新調したという手入れ道具を君の師匠が踏んづけて壊してしまった、という程度の痛手だろう」
「……それは」
なんとも、どう受け取って良いのか分からない。バイト代から奮発したブラシにはそれなりに思い入れがあるが、所詮はバイト代から支払える程度のものだ。ましてや壊した相手が師匠であるというのなら、多少落ち込みこそすれ、そう引きずらない気はする。
というより、そのケースなら師匠が自分から弁済を申し出るような――
「……ああ、つまり」
「やあ、さすがは内弟子だな。師匠のことをよく理解しているらしい。そう、その話を聞きつけた兄上が、自発的に借りを返そうとしているわけだ。それも返さなくていいような借りをね」
集中した自分とライネスの視線を受けて、師匠は鬱陶しげに眉根を寄せた。
「……お前が言ったことだろう。貴族間の貸し借りの危うさについては」
「ああ、言ったとも。いつもそういった面倒事を誰かに押し付けている我が兄上殿には、よーく覚えて頂きたいものだ。だがね? 命を賭してまでそれを返せと言った覚えはないな」
「命を……?」
何とも剣呑な単語だ。思わず窺うような上目づかいで見てしまうと、ライネスはむぅと呻いてソファの背もたれに体重を預けた。
「メルヴィンが借金相手に作った"借り"は、さっきも言った通りウェインズ家にとっては大したものじゃない。が、ロード・エルメロイU世"個人"にとってはちょっと手の出ない領域の話なのさ。誠意を見せてくれれば、愛しい義妹が甲斐性のない兄に貸してあげてもいいのだけどね?」
「愛しい義妹とやらのアドバイスに従って、下手な借りはつくらないことにしている」
「ふん。そしてそこにいる我が兄は、あろうことかこのご時世に宝探しへ行こうとしているわけさ」
「発掘調査、だ」
訂正するように言葉を差し挟んだ師匠は、何かを決心するように息を吐いてから自分に向き直った。
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