21: ◆gxyGj7UNSanm
2020/10/30(金) 02:29:43.96 ID:dk3wt1/f0
強い語気。
控えめにいっても、その顔はとてもアイドルには見えなかった。
ぐしゃぐしゃだ。
鼻水と、涙と、よだれで、とても嫁入り前の娘が異性に見せていいものではなかった。
しかし、その瞳の奥には強い意志がある。
「私は!皆も!貴方も!!
あんなに頑張ったのに!
ずっと一緒だって、言ってくれたのに!」
否定させはしないと。
強い語気に、だが気圧されることはなかった。
どこか遠いところで、しかし一番心の近い場所にある何かが言っている。
―――百合子ちゃんの言っていること、わかります?
きっと、目の前にいたらそいつは苦笑いしていたのだろう。
いつの間にやら、仲間思いの優しいやつになってしまったあいつ。
昔はもっとドジで、もっと不安定で、もっとがむしゃらだったような気もするあいつ。
あいつってのは……誰だっけか。
「なんで忘れてるんですかぁ……
なんで、こんな大事なこと……」
ステージの光。
輝いている少女たち。
リボンが揺らめいている。
「忘れてたっていいと思うけどな」
「嫌です……!そんなのっ」
誰が言っていた言葉だったか。
あるいは、いつかどこかで聞いた歌詞か。
「何度でも会えるさ」
「……え?」
「ちゃんと見つけただろ?」
「あ……」
この新しい世界よ、だったっけか。
ああ、いい歌詞じゃないか。
脳裏に浮かんだ曲に思いを巡らしていた数瞬。
いつの間にか、妄想癖の激しい本好きの彼女は泣き疲れたのか、眠っていた。
「はぁ……」
溜息をつく。体から力が抜けた。
よかった。返す返すよかった。
何を言ったかもろくに覚えていないが……
「腹減ったなぁ……」
とりあえず飯を食べたい。
そういえば。なんで俺はこいつが妄想癖が激しいなんてことを知っているのだろうか。
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