23:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:16:11.19 ID:FQVp12gN0
  
  ライブの時間はあっという間だった。 
  いや、そう感じたライラ含め、会場の皆がステージ上のたった一人を包むパフォーマンスにのまれただけかもしれない。 
  
  ライラは圧倒された。張り詰めた空気、微かな息遣い、美しいシルエット。ゆるやかなせせらぎの音、微かな伴奏音。高く静かな音色が一つ。音色はやがて声だとわかる。無から有へ、悠から動へ。そして世界は開闢へ。 
24:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:17:00.81 ID:FQVp12gN0
  
 「お疲れ様。とっても素敵だったわね」 
 「ありがとう。そう言ってもらえると安心するわ」 
  ステージ終了後の楽屋。ラフな格好に戻りようやく一息つく千秋に、千夏から言葉が贈られる。「慌ただしいでしょうけど、できれば一声だけでも掛けておきたいから」ということで立ち寄ることにしたのだった。ライラも一緒に足を運んだ。 
 「お疲れ様でございました。とっても……とっても素敵でした」 
25:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:18:44.81 ID:FQVp12gN0
  
  
      * * * * * 
  
  
26:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:19:38.36 ID:FQVp12gN0
  
 「ライラ、今日の動きよかったね」  
 「本当でございますか?」 
 「うん。頑張ってたのがよくわかったし、ミスもなかった……よね? たぶんファンも観ていて楽しかったと思うよ」 
 「えへへ、そう言って頂けると嬉しいですねー」 
27:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:20:09.00 ID:FQVp12gN0
  
 「あ、ごめん。難しく考えないで」 
  うつむくライラに杏がフォローを入れる。それはいいことなんだよ、と。 
 「杏からしたらさ、ライラは本当にたくさんのことを背負って生きてきたわけで、そこは尊敬なんだよ。すごいなって。でもそんな数奇な運命を辿って今ここにいるならさ、今だからこそできる向き合い方ってきっとあるはずだから」 
 「今だからこそ、ですか」 
28:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:20:42.43 ID:FQVp12gN0
  
      * * * * * 
  
  
  夜、ライラのもとにプロデューサーから電話があった。 
29:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:21:58.03 ID:FQVp12gN0
  
  X ステップ・アゲイン 
  
  
  物語が終わらなければ幸福なんだとしても、時計の針は進めるべきだと思うんだ。 
30:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:23:06.91 ID:FQVp12gN0
  
    * * * * * 
  
  
 「……つまり、過程を見せるのはルール違反じゃないかと思った、ということかしら」 
31:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:23:48.80 ID:FQVp12gN0
  
  
    * * * * * 
  
  
32:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:25:05.84 ID:FQVp12gN0
  
  ライブはたおやかに、しかし確かな熱を帯びて始まった。 
  先日の千秋のライブとは対照的に、やや小さめのハコでのライブ。しかしここは音響的にも評判がよく、またオーディエンス全体を見渡しやすい造りであることも含め、千夏は気に入っていた。 
  相川千夏はここ一年ほど、己の更なる表現を求め、いろいろ新しいことに取り組んでいた。まだまだ試行錯誤だし日々勉強ばかりと彼女は語るが、その評価は少しずつ高まっている。 
  柔らかだけど、芯のある歌声。 
33:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:25:40.31 ID:FQVp12gN0
   
 「少しだけ、お話をさせてください」 
  ライブ終盤、曲間に千夏が珍しく尺を取って語りを始めた。 
  最近の身の回りのこと、環境の変化、変わらずいてくれる人の存在。慕ってくれる後輩のこと。 
  手応えがあるのはやはり嬉しいという。ファンからのレスポンス、スタッフやバックバンドからの評価。巷での知名度。そして新たなお仕事の需要の声。それは絶えず新たな取り組みや挑戦をしているからこそ、尚更感じることであると。 
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