1:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 18:14:39.33 ID:lNwewwVE0
・捏造成分が多いです
・舞台は主に昭和63年となっています
・オリキャラが出ますが、主人公ではなくモブの語り手という形です
・登場人物の寿命を勝手に設定しています
・【重要】原作とも現実世界とも違う世界線です(とくにオチ)
その辺りを許してくれる方だけお読みください
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:28:00.75 ID:lNwewwVE0
小説投稿サイト、なるものを初めて利用する。
実際にデータを打ち込んでくれるのは友人の編集者であるB君だからインターネットの扱いについての問題はないと思うのだが、何分スマートホンの扱いにも苦労する老人のやることである。
読者諸氏におかれては、細かい不備があってもどうかご容赦願いたい。仮に間違いや問題点があっても一旦投稿した記事はもう訂正できぬとのことで、年甲斐もなく緊張している。
3:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:31:39.89 ID:lNwewwVE0
善逸翁と出会ったのは、昭和63年の八月であった。天皇陛下のご病状が思わしくないことが国民に伝わるよりも少し前だったのをはっきり覚えている。西暦でいえば1988年、今から約三十年前だ。
暑い夏だった。バブル景気の絶頂期でもあり、忙しなく行きかう人々の間には楽観的な、明るい雰囲気が漂っていた。ディスコだの、トレンディドラマだのが流行っていた。株の値段も土地の値段も永遠に上がり続けるものだと皆が信じ込んでいた。まず浮ついた時代だったといっていいだろう。どこかに時代の変わり目のきざはしを感じた者ぐらいは居たのだろうが、その懸念が口に出されることは遂に無かった。
きっかけになったのは確か八月の上旬だったはずだ。ちょうど取材の帰り、赤坂で大学時代の友人であり当時総合商社に勤務していたC君とばったり出会い、せっかくだし涼しい喫茶店で一服でもしようじゃないかということになったのである。当時の勤務形態ではこの程度の道草ぐらいは許容されていた。まだスマートどころか初期のタイプの携帯すら存在しない時代である。若い読者だと見たことすら無いのではと危惧するが、ようやく前年に出回りだしたポケベルもまだ支給されていなかったので、いきなり呼び出される心配もない。
4:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:34:42.86 ID:lNwewwVE0
ここで読者諸氏にもお訊きしたい。鬼殺隊、という単語をご存知だろうか?
その3か月前に私は初めて耳にしていた。胃癌の治療のために入院中の大叔母に突然呼び出されたときのことである。
親族同士の集まりで何度か顔を合わせたぐらいで、どちらかというと疎遠な間柄なはずの大叔母が私を指名したのは、後でわかったことだがどうやら私がマスコミ関係者だということが理由らしかった。実際はただの雑誌記者であり少し意味合いが違うのだが。
5:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:36:35.21 ID:lNwewwVE0
雑誌記者という肩書は度々厄介ごとを持ち込んでくるものだが、まさかそれが身内からとは思いもしなかった。それ以上情報を集めようにも、それから程なく大叔母は人事不省になってしまい、2週間後には逝ってしまった。残されたのはわずかな手がかり……鬼殺隊の中心人物だという数名の名前のみである。
とはいえほぼ遺言のような形になってしまったこともありさすがにないがしろにするのも気が引けて、本来の業務の傍ら、今でいうスキマ時間に少し情報収集の手を広げてみたところ……
意外にも、ぽろぽろと出てくるのである。藤の家紋を持つ家々から。鬼殺隊の逸話が。
6:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:38:13.93 ID:lNwewwVE0
「あんたですかいねぇ。わしに会いたいってぇ……おっしゃってる人ってのは」
C君の紹介で牛込の我妻邸を訪れ、善逸翁に初めて会ったとき。私は正直、失望を禁じえなかった。
鬼だのなんだのは妄想やら幻覚の類だとしても、凶悪なテロリスト集団を狩る組織の実行部隊の生き残りのはずの人である。背筋をぴしりと伸ばし着物姿も威風堂々とした、矍鑠と厳しい視線を纏った人物を期待してしまうのはやむを得ないところだろう。だというのにがらりと玄関を開けて現れたのは、よれよれになったTシャツにほつれたジャージのズボンを穿き、だらしなくサンダルを突っかけたよぼよぼの老人だったのだから。
7:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:39:10.37 ID:lNwewwVE0
途中本屋の前を通りがかるとまた目を輝かせて、
「おお! ナンノちゃんのぐらびあが出ておる! 折角じゃしこれも一冊奢って貰えませんかの? いんたびゅーのぎゃらのついでということで……♪」
などと言い出すので南野陽子の写真集まで購入する羽目になった。確かに当時のアイドル四天王であり知らぬ者がいないほどの大人気ではあったが、今年米寿を迎えようという爺さんが鼻の下を伸ばしているのはさすがに気色が悪かったと告白しておこう。申し訳ないが。
8:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:40:26.35 ID:lNwewwVE0
どうにか鰻屋にたどり着いて、特上の鰻と肝吸いを注文する。年齢にしては善逸氏の食欲は旺盛だった。機嫌が良さそうになったのを見計らって、いろいろと当時の逸話について水を向けてみたのだが……
「ああ……あのときは楽しかったなぁ……炭治郎も伊之助も禰豆子も、皆が元気で……あの家での毎日毎日が夢のようだった……あの頃は、本当に本当に楽しかったなぁ……」
私はテロリスト集団との血生臭い決闘や鬼殺隊なる謎の集団の実体について訊きたいのに、氏の記憶と話の内容はいつでも、あっという間に、鬼の首領を倒した後に山の中の小さな家で仲間たちと暮らした、限られた短い日々へと戻っていってしまうのである。
9:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:41:56.80 ID:lNwewwVE0
「次は紀の本のあんみつなぞがよろしいですな。あそこは抹茶最中などもなかなかグーで……」
店を出たとたん、翁はさっきまで大泣きしていたのが嘘のようにけろりと次のギャラ、あるいは賄賂を要求してきたが、もう不思議と、私は苛立ちもしなかった。むしろこのまるで経てきた年月なりの風格というものを備えていないだけでなく、どこか少年のような純粋さを感じさせる老人の話をもっとじっくりと聞いてみたいという心境に変わりつつあったのである。
「構いませんが、少々銀行に用があります。済ませてからでよろしいですか?」
10:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:43:14.03 ID:lNwewwVE0
今でこそ銀行強盗という犯罪はほとんど聞かれない。銀行よりずっと警備が手薄で盗みやすく24時間いつでも押し入れるコンビニ、あるいはファストフード店という存在が登場したことが大きいが、最近ではハッキングによる犯罪も増えているようである。犯罪者も在宅ワークの流れということのようだ。
しかし当時はまだ、年に数件ぐらいは新聞を賑わせていた。まさかその瞬間に居合わせてしまうなんて、私も善逸老人も運が悪いにも程があるが。
「おらっ! 早くありったけの現金を詰めやがれ! 少しでも怪しい真似しやがったらタダじゃおかねえぞ……!」
11:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:45:34.92 ID:lNwewwVE0
その場に居た誰もにとって不幸なことに、私達のすぐ横で母親に抱えられて椅子に座っていた3歳ぐらいの女の子が、恐怖のあまり火のつくような勢いで泣き出してしまったのだ。
「んなっ、何やってんだっ。すぐにそのガキを黙らせろ……!」
「ひいっ!? ゆ、許してっ、許してくださいっ……!」
12:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:47:57.82 ID:lNwewwVE0
「ぴ……ぴ……ぴぇぇぇぇぇ~っっ!!! じゅじゅじゅじゅじゅ、銃っっ!???」
突如、メンドリが絞め殺されるときのようなけたたましい声が響きわたった。緊迫した情勢も忘れて視線をやると、そこには杖を片手に持ったままブリッジするような姿勢でぷるぷるぷるぷると床に仰向けになっている善逸老人がいたのである。
銃を向けていた強盗があんぐりと口を開ける。さらに二人ほどの男が異常に気付いて近づいてきた。
13:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:49:51.38 ID:lNwewwVE0
「……の、……きゅう」
先ほどとは気配が違う。
汗も震えも止まっている。しゅうしゅうと蒸気機関車が立てるような音が聞こえる。彼の食いしばられた、入れ歯の間からだ。
14:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:51:50.01 ID:lNwewwVE0
そんな状況だというのに、私は早々と事情聴取から開放された。
「うぇっ? 何? 何が起こったのっ? ていうか腰! 腰めっちゃ、痛ったいんですけどっ? これやった! 絶対ギックリやっちゃってるよぉ~っ……!」
と、善逸氏がおよそ分別のある老人とは思えないほどに取り乱して泣きわめきのたうち回ったため、病院に付き添う必要があったからである。幸いレントゲン上骨には異常なく、鎮痛薬と湿布薬を処方されて氏は大人しくなり、家に送り届けることができた。
15:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:52:48.94 ID:lNwewwVE0
さてその後である。
私は何度か翁と会う機会を得たが、結局あの日以上の鬼殺隊についての話を聞き出すことはできなかった。そうこうしているうちに天皇陛下の重篤が伝えられ、世は重要性の低い話題を取り扱うことが憚られる自粛ムードとなり……翌年、年号が平成と改められた。
時代は急速に変わりつつあった。
16:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:54:15.53 ID:lNwewwVE0
ところが、先日のことだ。故・善逸翁のご家族から、突然のご連絡を頂いたのである。
なんと自宅の倉庫から、翁が書きとらせた伝記(ご家族は嘘小説と呼んでいたが……)を、ひ孫さんが発見したというのである。しかもひ孫さんが読み終えた後、わざわざ原本を私に郵送してくれた。
取材から三十年も経っているというのに、何故そこまで親切にしていただけるのかと疑問に思われるだろうか?
17:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 20:56:36.10 ID:lNwewwVE0
ここからは私事になるが、風邪のような症状が何カ月も良くならないので最近病院に行ったところ、ステージ4の肺癌だと診断されたのである。余命はせいぜい2.3カ月で、治療法はないとのことだ。実のところこの文章も、ベッドの上でB君に口述筆記して貰っている状態なのである。
念のため申し上げておくが、別にこの文章で同情を買おうというわけではないので、読者諸氏におかれてはどうかお気になさらぬよう願いたい。
善逸翁ほどではないものの、私も程々に長生きできた。子供も独立したし、妻の老後も心配はない。何より、あの時善逸翁に救われていなかったら、あの場で断たれていた命である。今更未練などない。
18:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 21:00:18.05 ID:lNwewwVE0
老人の昔語りが長くなってしまったが、ここまでが序文である。
ここから先の本文は、B君がスキャナーしてくれた善逸伝の画像ファイルのデータとなる。
善逸翁のご家族のご意向で、著作権はフリーとなっている。
19:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 21:00:43.29 ID:lNwewwVE0
【リンク先は削除されています】
20:名無しNIPPER
2020/12/16(水) 21:01:15.40 ID:lNwewwVE0
終わりです
読んでくれた方ありがとうございました
21:名無しNIPPER[sage]
2020/12/16(水) 21:14:54.93 ID:hQrNP5G30
鬼だけでなく神も妖怪も魔法もあるんだよ…僕はそう信じてます…
ここでの話は何処かでの現実かもしれませんね
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