夢の残骸に思いを馳せて
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1:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:10:05.08 ID:rddhOFwr0
ついに取り壊しが決定した


ここの遊園地は、かのバブル期の建築ラッシュで建てられ、多くの来園者が笑顔と思い出を作っていった

しかしバブル崩壊と共に客足は徐々に遠のき、遊園地側も新しいアトラクションや子供向けアニメとのコラボ等をするも費用と収入の差はどんどん開き、やがて緩やかに、緩やかに……そして誰に知られることもなく、ひっそりと閉園していった

あれから十数年、この土地は誰からも忘れ去られ、取り壊されることなく時の止まった夢の残骸としてこの場に捨て置かれている。それを証明するかのように、入り口に掲げられた巨大な時計は停止した時間そのままに過去を現在に投影していた。
時計を掲げるキャラクターの笑顔はもう客に向けられることはなく、ただただ虚空に向かって健気に微笑んでいる。そんなもう誰にも向けられない笑顔を見ていると何だか胸が苦しくなり、ついに顔を逸らしてしまう

この遊園地はもう取り壊しが決まっている。きっと何も無くなる。そしてその上に何かがまた建てられるのだろう。夢の残骸があった場所に、自分の思い出の地に…


それを考えたくなくて目を瞑ると廃墟が廃墟でなく、夢の残骸が本当に夢を与えていた時代が蘇ってくる

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2:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:12:05.88 ID:rddhOFwr0
思い出すのは幼少時代、まだ社会の辛さも学生の苦労も学校の人間関係も何も知らなかった、両親から与えられる愛情と食事と睡眠、幼児向けの娯楽と悪いことをして怒られるのだけが世界の全てだった時代、この遊園地が自分の記憶の始まりだった

平々凡々とした日々、自宅や他に連れていってもらった場所は忘れていき、最後まで残された最初期の記憶、家とその周りだけが全てな自分にとってここは本当に夢の世界だった。

見たこともない程の人、人、人。テレビの中でしか見たことないキャラクターたち、きらびやかな眩いばかりの装飾と鳴り止まない音楽、目にするもの全てが輝いて見えた。目に映る全てが自分を歓迎しているように感じた。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:15:28.36 ID:rddhOFwr0


ふと、目を開けるとゲートが開いていた。閉鎖されてから一度も開かれることの無かった夢の入り口が開き、キイキイと錆びた音を鳴らしながら手招きするかのように揺れている。立ち入り禁止の柵も看板も、常に巻かれていた鎖も消えていた。

まるで何かに導かれるように、何も考えることなく足を踏み出していた。ゲートの内側へ、役目を終えたかつての夢の国へと
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:20:45.24 ID:rddhOFwr0


ふと、とある乗り物が目に留まる。なんてことはない、子供向けの小さなジェットコースターだ。まだ何の恐怖も知らなかったあの頃、初めて味わう「スリル」というものに病みつきになっていた。何度も、何度も、もう一回、もう一回とせがみ、親が呆れるまで乗り続けた。

懐かしくなり、列を想定してロープで作られた道に入り、乗り場まで歩いた。そこにはあの日そのままに時が止まったように懐かしい乗り物が待っていた。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:23:04.35 ID:rddhOFwr0


城を見上げる。この遊園地のシンボルとも言える大きなお城だ。これももはや廃城となり、繁栄の象徴の様な華やかさは消え失せていた。

塗装は剥げ、所々に赤茶けた錆の浸食が見られる。好き勝手に伸びる植物が廃城感を尚一層増し、森の中に忘れ去られた廃墟を思わせる。パーク内のどこからでも見える大時計は他の時計と同じ時に止まり、文字盤のガラスはヒビが入っていた。
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:30:59.49 ID:rddhOFwr0


どの乗り物も今は決して動くことがない。あの日の思い出をなぞりながら歩き続けるとふとざわめきが聞こえてきそうになる。

溢れかえっていた人の声、足音、愉快な音楽と乗り物の駆動音、しかしそれは幻に違いなく、今目にしているのは確かに閉鎖された遊園地であり、夢の残骸だけが宿る廃墟なのだ
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:39:45.62 ID:rddhOFwr0
間違いない、とうに電気も通っていないであろう観覧車がキイキイと鳴き声をあげ、少しずつ、ゆっくりと動き出しているのだ。

あの日の速度そのままに、思い出の中のゆっくりした緩慢な動きをなぞりながら、徐々に高度を上げていく。


以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:43:37.60 ID:rddhOFwr0
君が…呼んだのか?」


返事は無い。もやは微動だにせず、ただただそこに座っている

以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 20:16:25.20 ID:rddhOFwr0
自然と自分の頬に暖かい何かが流れる

窓の外に広がっていたのは廃墟の遊園地ではなかった。色褪せた夢の成れの果てではなかった。

そこには、あの日の光景が、まだこの遊園地が華やかだった頃の光景が映し出されていた。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 20:43:51.10 ID:rddhOFwr0
下から何かが浮き上がってくる。それはキャラクターの絵が描かれた風船だった。下を見ると空に両手を伸ばしている少年がいた。

自分だ。そう…最後にこの遊園地に来たとき、買ってもらった風船を離してしまったのだ。結局空に浮かび上がった風船は帰ってくることなく泣きながらも諦めることになった。

その風船が今ここにある。描かれたキャラクターは満面の笑顔で笑いかけてくれている。
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 20:56:48.43 ID:rddhOFwr0
……



気が付くと遊園地の前に立ち尽くしていた。廃墟の遊園地は廃墟でしかなく、ゲートは確かに締め切られ、立ち入り禁止の柵も看板も鎖も、一度も解き放たれたことが無いように硬く閉じられていた。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 20:57:23.93 ID:rddhOFwr0





以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 20:58:17.14 ID:rddhOFwr0



14:名無しNIPPER[sage]
2021/01/10(日) 22:03:44.05 ID:7x4WZ0wXo
ありがとうございました!


15:名無しNIPPER[sage]
2021/01/11(月) 10:02:54.95 ID:BxxVsFYDO



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