2:名無しNIPPER[saga]
2021/01/11(月) 22:51:48.24 ID:ZKg1ruiG0
夜の私は、神経質になってしまう。最近は睡眠もあまりとれない。
白ルシア「さもわたしのせいだと言いたげね」
指揮官「実際、そうだからな」
白ルシア「でも、あんな嘘の理由で退役することで私と離れられると思っているのね」
白ルシアは、薄く嗤った。
彼女は、私の中に住み着いた、【敵】。最初は、幻聴だと思っていたが毎夜に現れて、なにかを確認しては消えていくだけの存在だった。
やがて、二言、三言話すようになり、徐々に会話が続く。
それが白ルシアと邂逅を果たした北極圏での事件以来、ずっと続いている。
これが、ただの夢だったらどれだけよかったことか。
あの事件以来、私が所属するレイヴン隊は昇格者と遭遇することが異常に増加していた。
レイヴン隊は、確かに前線を駆け巡る隊だが、明らかに他の隊に比べて10倍以上に多い。
昇格者は非常に危険な存在で、何度も危機にあってきた。その危機を、自分が作っていたとしたら?ルシアの右腕がロランの一撃で吹き飛んだとき、
私の疑念は恐怖へと変わった。彼女の防御が一瞬遅れて、ロランの本来の狙い通り、彼女の頭を吹き飛ばしていたら、彼女は二度と復帰できない。
永遠に失われるのだ、その命が。
指揮官「私の価値は喪失した。君が、私の記憶を探って、行動を把握する理由もなくなる」
白ルシア「何のことかしら」
彼女はポケットから取り出したクジラのぬいぐるみを、なではじめる。
綻んだ糸くずを丁寧に取り外すところから、相当にお気に入りらしい。
指揮官「一つの可能性の話だ。だが、根拠がないわけじゃない」
白ルシア「貴方は、昇格者、機械生命体から見て、優先的に殺す価値はあった」
白ルシアがクジラの人形を甘く噛む。噛んだあとは、八重歯の位置に綺麗な穴が開いている。
白ルシア「それだけの脅威。この一方的な情勢を変える力があると目されていた」
指揮官「私は――――」
白ルシア「そんなあなたも仲間を危険にさらすことが、怖いのね」
指揮官「…それも今度で終わりだ、君と会うのも、永遠に」
白ルシア「わたしの敵がこんな臆病者だったなんて」
白ルシアは、くじらのぬいぐるみを静かに抱きしめた。
白ルシア「大切にしておかないと、すぐ壊れてしまいそう」
彼女には、収集癖があった。そのくじらのモチーフである一角くじらもその一つである。
指揮官「私は、君の思い通りにはならない」
白ルシア「それが、私の望むことよ」
私にすっかり興味をなくした彼女は、音もなくその姿を消した。
それから私は、眠れない夜を漠然と過ごすのが日課であった。
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