23:名無しNIPPER[saga]
2021/04/18(日) 02:00:17.78 ID:S9RXO5Th0
 大切だから。 
  
 失う痛みが怖いから。 
  
 だから忘れた。 
  
 こんな風に影を残すほどに大切な想い出だった。 
  
 「でも……私も、同じものを忘れていた」 
  
 嫌な事だけならば、辛くなんてないのだから。 
  
 楽しかったから、辛かったのだから。 
  
 私は……私も。 
  
 望んで忘れていた。 
  
  
 辛い記憶の鎖に繋がれるのが怖くて。 
  
 そこから進めなくなるのが怖くて。 
  
 忘れる事で、進む道を選んだ。 
  
 「だから、あなたは、一人じゃないわ」 
  
 彼女を抱きしめる。 
  
 霞のようなその体からは温度なんて感じないけれども。 
  
 なら、私の温度を分けてあげれば良い。 
  
 「あなたの持ち主が、あなたを忘れてしまっても。私があなたを見つけたから」 
  
 ……いいや、きっとこれは私が見つけないとダメだったんだろう。 
  
 ここで、彼女が泣いていたのは自分以外の誰かに見つけて欲しかったからなのだろう。 
  
 それが、それこそが。 
  
 あの子の望みだったのだろうから。 
  
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