2: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:04:43.77 ID:FpkFq5Eu0
 ――事の発端は30分前。 
  日差しで暖かくなり始めた午前10時頃に、駅前でフラフラと彼女らしくない様子で歩く先輩を見かけたところから始まった。 
  心配になって声をかけてみれば―― 
  
 「これはこれは、恥ずかしいところを見られてしまいました。 
  実は昨夜から夜明けまでちょっと“お仕事”をしていまして。そこからさらにあと片付けやら報告を食事も取らずにしていましたら、気がつけばもうこんな時間! 
  ご飯を食べようにもカレーは作り置きもレトルトも切らしていたため、こうしてメシアンに向かっている最中なんです」 
  
 「そんなにお腹が空いていたなら――」 
  
  近くのコンビニで済ませれば良かったんじゃないですか? という迂闊な言葉をかろうじて飲み込む。 
  普段の先輩ならば「何を言うんですか遠野君! 心身ともに疲れた体を癒す食事を、適当なもので済ませていいはずがありません。ターメリックとコリアンダー、クミンにレッドペッパー。ガラムマサラに人参・玉ねぎ・リンゴ・牛肉。そこから導きだされる黄金比の輝き《カレー》こそが求められるのです!」と握り拳で語るぐらいで許してくれるだろう。 
  
  しかし今ここにいるのは飢えた獣だ。口調こそ柔らかいが眼がギラついている。 
  きっと“仕事”とやらを終えて、さあ食事だと意気込みながら冷蔵庫を開ける段階になって、ようやく作り置きを切らしている事に気づいたのだ。 
  世界に裏切られたと言わんばかりの絶望に襲われた相手に「コンビニのパスタでも食べてろ」なんて言ってみろ。 
  
  頭から齧《か》じられ、そして喰いちぎられる。 
  
  そんな飢えた獣を前に草食動物である俺ができる事といえば「そうだったんですか大変でしたねアハハハハ〜」と刺激しないように流すだけだ。 
  
 ――と、そんな風に流していたら。 
  
 「良ければ遠野君もご一緒しませんか?」 
  
  先輩から早めのランチを誘われました。 
  お腹に手を当てながら考える。 
  朝はそんなに食べてないため少しお腹が空いていた。 
  メシアンのカレーは美味しいし、先輩と一緒ならばより美味しく感じられるだろう。 
  
 「いいですね。俺も――」 
  
 「メシアンってカレーショップだったわよね? 人間は同じ物ばかり食べていたら体がおかしくなるんじゃないの?」 
  
  先輩のせっかくのお誘いに乗ろうとしたその時。 
  いつからそこにいたのか、アルクェイドが俺の肩越しからひょいっと顔を出してきた。 
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