6: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:08:05.85 ID:FpkFq5Eu0
※ ※ ※
「へえ〜、ふ〜ん。なんだかシエルっぽい雰囲気のお店ね」
「そ、そんな。別に貴女に褒められても何もしてあげませんからね」
全体的に赤っぽくて茶色っぽい彩りと、厳かなのに奇怪な雰囲気が漂う店。
アルクェイドが軽く辺りを見渡しながら口にしたあんまりな感想を、先輩は満更でもない様子で受け入れる。
良いんだ……カレーショップらしいっていうのが誉め言葉になるんだ。
あ、でもこの店の何でも受け入れますという包容力は確かに先輩らしいかも。
「さて、遠野君は今日は何にしますか?」
四人掛けのテーブルに座り、二つあるメニュー表を俺とアルクェイドに差し出す先輩。
自分は後でいいという気遣いもあるだろうけど、この店のメニューは網羅しているという静かな自負を感じられた。
「そうですねぇ……このドロワットにしてみます」
「む」
「へえ、美味しそう。わたしもそれにしようかな」
「待ちなさいアルクェイド。あなたはカレーを食べに来たのですからカレーを選びなさい」
「え? これカレーじゃないの?」
「エチオピアカレーと呼ばれるものですが、厳密に言えばカレーではありません。いえ、美味しいんですよ? カレーとはまた違った辛さがありますし、私たちがアフリカ料理を食べる機会もそうそう無いですから遠野君が食べるのを止めたりはしません。
しかしまだカレーを食べたことが無いというあなたが、こうしてカレーショップの中のカレーショップであるメシアンを訪れるという機会を得たのに、カレー以外を注文するのは見過ごせません」
「え〜、じゃあわたしは何を食べればいいの?」
「そうですね。わたしのお薦めはバターチキンカレーです。
でもコレが食べたい! というモノがあれば別にそれでも構いませんよ。
ドロワットは許しませんが」
「そっか。じゃあバターチキンカレーで。
お寿司屋さんだって最初の一皿目は卵じゃないといけないんだし、初めてのカレーはシエルの言う通りにするわ」
鍋奉行ならぬカレー奉行といった様子の先輩の意気込みに、アルクェイドは特にこだわることなく先輩のお薦めを受け入れる。
「すみません」
注文が決まったところで先輩は手を挙げて店員さんを呼び止めると――
「ドロワットを一つとバターチキンカレーを一つ、それとインドスペシャルを大盛りのスパイス20倍セットでお願いします」
「――――――――――」
「ご注文を確認させていただきます。ドロワット、バターチキンカレー、インドスペシャルを一つずつ。インドスペシャルは大盛りのスパイス20倍セットでよろしいでしょうか?」
よろしくないです。
目の前にそんな劇物がある状態で、おちおち食事なんてできやしません。
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