9: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:10:15.01 ID:FpkFq5Eu0
 ※ ※ ※ 
  
  
  
 「――――――来たか」 
  
  こうして無力な俺は、テーブルにスパイス20倍セットが2つも並ぶのを止めることができず(俺のドロワット感度20倍化は断固阻止した)、圧倒的スパイシーな香りに息をのむ。 
  
  それは赤く、黒かった。 
  
  カレーと聞いてバーモントカレー(甘口)を思い浮かべる者たちの首根っこを鷲掴《わしづか》みにして、積み重なったガラムマサラの砂丘に生き埋めにせんとする暴力的な香り。 
  このカレーを口にする者、一切の希望を捨てよ。 
  同じトレーで運ばれてきたけど、俺のドロワットに辛さが移っていないだろうか。 
  
 「おお〜」 
  
  恐れ慄く俺とは裏腹に、アルクェイドは感嘆の吐息と共に拍手で迎え入れる。 
  楽しそうで何よりだけど、それって注文した料理が来た時の反応として正しいのだろうか? 
  ああ、正しかったか。紫色のド派手なケーキが来た外国の子どもも、多分こんなリアクションだろうから。 
  
  一方の先輩は静かだった。 
  静かだけど目が据わっている。 
  
  暴力的な香りを前にして、嵐の前のような静けさを漂わせている先輩。 
  果たしてこの二つを接触させていいのだろうか? 対消滅が起きたりしないか心配になる。 
  
 「――いただきます」 
  
 「いっただっきまーす♪」 
  
  厳《おごそ》かな声と、底抜けに明るい声が地獄の開催を告げる。 
  俺はというと用心するあまり、まだスプーンに手すら伸ばしていない。いや、何に用心しているんだか自分でもわからないんだが。 
  何だか中華料理屋で神父と対峙する正義の味方みたいな気分だ。 
  
 「アルクェイド。お前の服白いんだから跳ねないように気をつけろよ」 
  
 「ん? だ〜いじょっぶ、任せて任せて!」 
  
  味についての警告はできない。 
  20倍セットなんて俺にとっては未知の領域だ。 
  せめてその白い服だけは助けようと空《むな》しい忠告をする。 
  
 「わたしが知ってるカレーとは見た目がかなり違ってるわね」 
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