藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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2021/10/30(土) 14:39:04.55 ID:/ZuqsV3u0
  駅に着くと、肇さんは想像した以上に大荷物だった。 
  
  これじゃあ、ほとんど何も用意せずにやってきた私がバカみたいだ。 
  申し訳ない気持ちのままに手伝いを申し出ても、肇さんは笑って手を振る。 
  
38:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:40:49.59 ID:/ZuqsV3u0
  バスに揺られ、目的の停留所からさらに歩くこと15分。 
  
  これは、お嬢さまをお連れする事はできないだろうな――。 
  そう思っているうちに、ようやくポイントにたどり着いたようだ。 
  
39:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:42:29.89 ID:/ZuqsV3u0
  魚がいるであろう狙い目のポイントについて講釈を受け、肇さんの見様見真似でイクラを付けた釣り針を川に放る。 
  
  竿を構えたまま、肇さんは岩の上にジッと立ち尽くしている。 
  
  しばらくは、待ち――か。 
40:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:44:09.97 ID:/ZuqsV3u0
  その後も何度か試してみるが、結果は同じだった。 
  
  この分だと、お嬢さまへの土産は望むべくもないか。 
  
  
41:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:45:30.13 ID:/ZuqsV3u0
  無為に流れる時間は、私に考える暇を与えたらしい。 
  肇さんが今日、私を釣りに誘った理由を。 
  
  もちろん、ただの気まぐれ、その場の思いつきだった可能性もある。 
  しかし、繰り返しになるが、彼女は先のユニット活動においても人一倍の気ぃ遣いだったのだ。 
42:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:46:33.56 ID:/ZuqsV3u0
  気づくと、私の口からそんな言葉がついて出た。 
  
  失礼だっただろうか。 
  ハッとして肇さんの方を向くと、彼女は変わらずに柔らかな笑みで応えてくれた。 
  
43:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:48:38.87 ID:/ZuqsV3u0
  ――なるほど。ヒーリングスポット、か。 
  どうやら、魚を釣る以外の目的はあったようだ。 
  
  都会の喧噪から離れ、川の上流まで行けば、自然豊かな環境になるのも道理と言えるだろう。 
  
44:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:50:50.70 ID:/ZuqsV3u0
  ――? 
  その言い方だと、違うのか? 
  
  ただ、と言い置いて、彼女は言葉を続ける。 
  
45:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:52:22.14 ID:/ZuqsV3u0
  ――無為な時間を過ごすことが、目的。 
  
 「そのような考えは、ありませんでした」 
  
  黒埼に仕える従者として、常にやるべき事を探し、合理的に時間を使う事だけを考えてきた。 
46:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:54:18.44 ID:/ZuqsV3u0
  アイドルを始めたばかりの頃、お嬢さまがしきりに仰っていた言葉を思い出す。 
  黒埼の従者だけではなく、私にはもっと色々な経験をしてほしいのだと。 
  
 「だから……アイドルという珍妙な世界に身を置くようになって、こういう時間が取れるというのも、不思議なものを感じます」 
  
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