確信を得てしまったダイワスカーレット
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2: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/11/28(日) 06:51:57.60 ID:vPGydQ4T0
――事の発端はこぼれる鼻血を必死になって抑えようとするウオッカを見つけたコトだ。

 何事も一番を取る自分にとって、順序にこだわらないこの型破りは目障りで、目障りすぎて、どうしようもなく目を引き、自分の人生《レース》に多大な影響を与えたライバル。
 あまり口に出してライバルとは言わないけれど、このダイワスカーレットを語る上で外せない存在なのだ。もう少しシャンとしてほしいという怒りがわいてくる。

 自分の生き様を貫いている時は、不覚にもこのアタシですら見惚れるほどカッコいいのに、なんで小中学生の男子染みた無様《ぶざま》を定期的にさらすのだろうかこの女は!

「ちょっとアンタ! またそんな鼻血なんか垂らして今度は何があったのよ!?」

 沸々と湧き上がる怒りのままに近づきながら、これってしみ抜きしてもダメだろうなと諦めつつハンカチをやや強引にアイツの顔に押し付ける。

「う、うるせえっ! 昼間っからあんな話をしてるアイツ等が悪いんだ!」

「昼間っからねえ。どうせお日様が登っている時間でもできるレベルの話で興奮しちゃったんでしょ」

「いやいや。これはお前だって無関係じゃないんだぞ!」

「はあ?」

 何を言い出すのだろうコイツは。アタシはアンタと違って恋愛映画のキスシーンぐらい平気なんですけど。

「いや聞けって。さっきトレーナー室を通りがかったから、ちょっと顔を見て行こうかと思って……そしたらアイツ等!」

「……アイツ“等”?」

 どうせたいしたコトはないだろうと聞き流していたら、流すわけにはいかない不穏な単語が聞こえてきた。一人はウオッカのトレーナーだろう。
 
 ではもう一人は?

「アイツ等……部屋に自分たちしかいないからって、普段どういうの“観てるか”話してたんだぜ、チクショウッ」

「――――――――――」

 男同士で何を“観ているか”を話していて、それを聞いたウオッカが鼻血を流した。それはつまり、そういうコトなんだろう。

「チクショウ……何かショックだぜ。男はスケベな生き物なんだから許してやれって母ちゃんが言ってたけど……え、ええ……ェ…ロ……動画の話とか……いきなりハードル高すぎんだろ」

 蚊の鳴くような声で聞き取りにくかったけど間違いない。どうやらアイツは部屋に男しかいなかったからといって、外に聞こえるぐらい猥談で盛り上がっていたわけだ。学園の中という、すぐ近くを年頃のウマ娘が通る可能性があるというのに。

 普段のアイツらしからぬ行動に、すうっと血が抜け落ちるような感覚が襲いかかる。

「お、おい? スカーレット?」

「……詳しく聞かせて」

 普段のアイツは、そんなコトしない。
 普段のアイツは、ウマ娘に不快感を与えかねないコトをしたりなんかしない。
 つまりそれだけ興奮して同僚と話をしていたわけだ―――――――――売女《ばいた》について。 

 普段のアイツらしからぬ行動。アイツの隠していた本性。
 アイツがアタシに見せてくれない情欲を、見知らぬ尻軽女に吐き出す。
 これほどウマ娘の信頼を裏切り、尊厳を破壊する行為があるのだろうか?
 かつて経験したコトが無い屈辱と怒りに指先が震え、世界が歪む。


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