キョン「分かち合うって、何を?」佐々木「世界の喪失の、哀しみを」
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:41:09.44 ID:xk4lsT1lO
「キョン、どうかしたのかい?」
「え? 何がだ?」
「さっきからずっと上の空だよ」

中坊の頃、迫り来る高校受験を目前にしてまったく勉学に取り組む姿勢を見せなかった俺に痺れを切らしたお袋に指図され、学習塾に放り込まれた。そうした経緯で漫画やゲームを取り上げられて勉強漬けを余儀なくされた可哀想な俺の唯一の娯楽はライトノベルであり、申し訳程度の挿絵の存在を親が知らないのを良いことに読み耽っていた。ライトノベルはシリーズ形式で何冊も刊行されている作品も多くなかでも好きなシリーズがあった。

「ああ、なるほど。ニュースを見たんだね」

1巻からコツコツ読み進めてようやく最新刊に追いついた俺は、その作品の続きが読めないという現実に直面した。この世の中にはどうしようもないことがあって、それを現実と呼び、受け入れるしかないことを俺は学んだ。

「あの作品、僕も好きだったよ」
「佐々木が?」
「意外かい? 僕もたまにはラノベを嗜む」

いつも小難しい本ばかり読んでいる佐々木がこの作品を読んでいるとは思わなかった俺がようやく視線を向けると、くつくつ微笑み。

「まるで迷子だね。大丈夫。分かち合おう」
「分かち合うって、何を?」
「世界の喪失の、哀しみを」

世界の喪失。そう佐々木は表現した。そこで俺はこの虚無感の正体を理解した。今朝、ニュースを見たあの瞬間に作品を通じて自分の中に広がっている世界が、喪われたのだと。

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:44:53.18 ID:xk4lsT1lO
「なあ、佐々木……教えてくれ」
「僕に答えられることなら、なんでも」
「どうして世界は回り続けているんだ?」

俺は現実を受け入れられなかった。時が止まってもおかしくないと思うほどに、喪失してなお回り続ける世界に違和感を抱いていた。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:48:14.77 ID:xk4lsT1lO
「佐々木、訊いてくれるか?」
「もちろん。僕はキミの親友だからね」

俺は作品について佐々木に語った。その作品の魅力。どこに惹かれ、何を楽しんだのか。

以下略 AAS



4:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:50:40.90 ID:xk4lsT1lO
「キョン。僕の話を訊いて」
「ああ。もちろん、訊くぜ」

自分だけ言いたいことを云って、お前の話は訊きたくないなど、そんなことは言わない。
佐々木は俺の書いた駄作を読みながら語る。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:52:03.37 ID:xk4lsT1lO
「書いてみてよくわかった。書きたいことを書いて読者を楽しませる作者の凄みがさ。そして、それがどんなに、困難かってことを」

書きたいことを書いても読んでる奴が面白いとは限らない。中にはプロとして読者の望みを作中に反映させる作者もいるだろうが少なくともこの作者はそうした書き方ではない。

「俺は、あの人のようには、なれない」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:53:57.02 ID:xk4lsT1lO
「それにしても……キミの作品のこのオチ」
「ああ。酷いもんだろ?」
「なんで主人公とヒロインが脱糞するのさ。裏腹でハラハラしてもお腹は下さないよ?」
「フハッ!」

以下略 AAS



7:名無しNIPPER[sage saga]
2022/01/16(日) 21:54:38.75 ID:xk4lsT1lO
先日、『私のほうが先に好きだったので。』という作品と出会いまして、これがまた素晴らしいお話で存分に楽しませて頂きました。
世界が止まりかけている方におすすめです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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