3:名無しNIPPER
2022/04/02(土) 23:15:13.66 ID:QLtqEEbF0
彼女は私を見つめている。
その眼からは、「私に話したいことがあるのなら、聞いてあげますよ?」という、疑いと、信頼と、甘えを混じらせた考えが、喋らずとも伝わってくる。
私は彼女の頭を撫でて誤魔化そうとしたが、子ども扱いされていると思われたのか、ちょっとふくれさせてしまった。
「…大した事情はないよ。本当に」
「本当に?」
「うん、本当に」
「…あのマルゼンスキーを担当したトレーナーが、中央から地方のトレーナーへ転属したのも?」
その言葉に苦い思い出が頭をよぎり、それが表情に出てしまったのか、彼女は一瞬瞳を揺らがせたが、こらえて、それを押し留め、いつもの勝気な瞳で、私を見ていた。
よほど私の事情が気になるのだろうか。今までずっと疑問に思っていたのか。隠し事をしているトレーナーのことが気に入らないのかもしれない。
もっともだ。
「…マルゼンスキーさんと、何かあったんですか?」
「…」
少し後ろめたい気持ちになる。
隠すほどのことではない。ただ、自分の未熟が人を傷つけてしまったのが嫌で、あまり思い出したくなかっただけだ。
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