275: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2024/07/22(月) 23:15:51.29 ID:XXdSh8X20
そこから数十秒、周りでは喧しく砲声が響き続けているのに、それらを押し潰しかねないほど重く息苦しい“静寂”が戦場を支配する。
W号とチ級が互いの武装を向けてにらみ合う中、“群れ”は本校舎の前を通り過ぎ、校門を出、軽空母ヌ級の傍を駆け抜け、尚も歩みを止めず遠ざかっていく。
『……………ヂィッ!!』
「……………各位、防衛陣地内に後退!!」
やがて口元を歪めたチ級が、「もうやめだ」とでも言うように一声鳴いて機銃の照準をW号から外す。その艦影が再び居住区へ跳び下がっていく光景を見届けた西住さんが指示を下したところで、ようやくこの空間は音を取り戻した。
「ひぃっ、ひぃ〜………し、死ぬかと思った…………」
「(バカ、気を抜くな!こっちがギリギリだったとバレたら今度こそ“かと思った”で済まなくなるぞ!!)」
「(バリケード内に撤収するまでは戦闘態勢取り続けろ、まだ比較的元気なやつで外側を固めるんだ!)」
それでも、まだ緊張は解かれていない。保安官の一人が(小声でどやすという実に器用なやり方で)若手隊員を諭した通り、西住さんのハッタリを看破されれば私達は瞬く間に窮地に陥る。わざわざ“群れ”を呼び戻さなくても、チ級一隻だけで戦力としては本来なら十分以上に可能だ。
実行しなかったのは、さっきも考察した通り【駆逐艦・叢雲】という存在が戦闘の長期化に応じて自分たちの“事故”に繋がりかねないから。その最大の懸念が実はほぼ機能不全であると知れば、攻撃再開の可能性は決して否定しきれない。
故の、臨戦態勢維持。W号をしんがりに、僅かでも隙があったなら即座に攻勢に転じてやるという“素振り”を見せつつ、焦る気持ちを抑えてゆっくりと保安隊はバリケードの内側へ退がっていく。
「───車両、後退!閉門!!」
こうしてバリケード外に展開していた全ての保安官が中へ引っ込み、現時点で周囲を取り巻く者が折り重なる【暴徒】や【寄生体】の屍だけになったところで、西住さん自身もようやく後退を開始する。
li イ; ゚ -゚ノl|《く、クリアーです!》
《OK!Command Tankより格納庫、大至急用意可能な飲料水と多少でいいから手当の心得があるヤツよこして頂戴!それから機銃の予備弾薬もね!》
W号がバリケードの中へ完全に車体を入れる間際、最後の警戒のため砲塔をゆっくりと旋回させる。
その様子はまるで、死線を数え切れないほどくぐり抜けてきた歴戦の老兵が、油断なく睨みを効かせているように感じられた。
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