19:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/07(土) 14:15:59.58 ID:FRtckmfc0
あの夜の、それから先のことを、ひとりはあまり覚えていない。
抱き合うような格好のまま眠りに落ち、気付いたら朝になっていて、でも二人分の暖かさに包まれていたおかげか、二人ともまったく目覚める気配がなかったと、郁代の母親にあとで言われた。
結局遅刻ギリギリの時間に家を出ることになってしまい、二人きりでの登校というイベントも慌ただしく終わってしまった。
いつも通りの学校。いつも通りの授業。
しかし、郁代との距離はものすごく縮まった気がしていて、それだけで学校が少しだけ楽しいと思えるほどだった。
ふたりも結局陰性だったそうで、翌日からはきちんと家に帰ることができた。
なんとか無事に、本番を迎えられそうだ。
「あれー!? なんか今日の演奏、前よりもすっごいよくなってる気がするんだけど気のせい!?」
本番前最後のスタジオ練習、一回目の合わせを終え、虹夏は嬉しそうにはしゃいだ。
「郁代、なんか歌い方変わった。前よりもいいと思う。ぼっちもちょっと変わったかも」
「本当ですか!?」
リョウにもそう評され、郁代は頬を上気させて喜んだ。ひとりもその様子を微笑ましく見つめる。
「よかったね、ひとりちゃん♪」
「……はい」
たくさんお話して、たくさん触れ合って、一緒に眠って。
あれから少しは、気持ちが通じ合うようになったのだろうか。
郁代が自分に納得のいく歌唱ができるようになったのなら、何でもいいか。
あの夜ずっと撫でられ続けた髪を指先でくるくるといじりながら、ひとりは静かにそう思った。
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