111:1[sage]
2010/07/12(月) 01:14:27.83 ID:k/jVEt.o
「おう、少年、頑張れよ!」
突然すれ違いざまに声をかけられ、驚いて顔を上げるダルク。
人型モンスターの屈強な背中が、ダルクの眼前から離れていくところだった。
あぁそうか、闇紛れの術が切れていたのか。
ダルクは息を切らしながら額を拭い直す。
これだけコンディションが乱れていれば、術の効果も持続するわけがない。
それにしても久しぶりに人に声をかけられた。
外界に来てからエリア・ウィンに続いて三人目だ。
風呂上りだろうか。こんな時間でも来客は自分だけではないようだ。
疲弊している中とっさのことだったからつい返答できなかったが、悪かっただろうか。
いま一度振り返ると、思わず竦むような急勾配の下り坂が闇の中に伸びていた。
我ながらここまで登ってきた自分を大いに称えたい。
そして、その坂の視界が捉えられるギリギリの位置に、先ほど声をかけてくれた男の後ろ姿が小さく見えた。
あの盛り上がった肩の筋肉。
身体そのもので威圧する迫力。
戦士族のたくましさは、外界でも褪せることはないようだ。
ダルク自身、結局剣ではなく杖の道を取ったが、今まで戦士に憧れたことなら何度かある。
自分もおとぎ話の勇者のように大剣を振り回せたらと夢見て、実際にその機会を得たこともある。
筋肉痛は一週間続いた。とてもじゃないが、魔法使いの腕力では遠く及ばぬ境地だった。
だが今は――今の自分は!
せめて入浴場までたどりつく程度の戦士ではありたい!
「……ハァ……ハァ……ヒィ……フゥ……ホァー……」
果たしてこの坂道はこんなに長かっただろうか!?
右足一歩、左足一歩がしんどい。
汗がポトポト垂れ落ちて、それが足元の砂利に一瞬にして溶けこむ光景も見飽きた。
杖に寄りかかり、体力を削る思いで行き先を確認する。
あまり遠くない地点で何かが白く霞んでいた。
湯気だ!
「あ……あと半合ぐらいか……よーし……」
戦士ダルクは、鉛と化した両足を再び前へと引きずり始めた。
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