168:1[sage]
2010/09/10(金) 16:57:13.46 ID:fnPPJpYo
月のぼる夜半もたけなわ。
湯気に白んだ登山道に、黒髪の少年が一人。
上半身は汗だくシャツ一枚。腰には乱雑に巻きつけた上着のコート。
さながらかけだし大工を彷彿させる姿で老人のように杖をつきながら、一歩一歩ノロノロと進む――。
そんな霊術使いが、とある活火山の中腹に到達したところだった。
長きにわたる慣れない登山を経て、ようやく目的地の入浴地帯へ足を踏み入れたのだった。
「おいディー着いたぞ……起きろ……」
ダルクは、もはや自分の右肩と一体化していた使い魔を揺り動かした。
黒一色の一つ目コウモリは、うだるような蒸し暑さに飛び回る気力も萎え果てていたようだ。
しかしもともと好奇心旺盛なディーは、目的地への到着を知るや勢いをつけて主人の肩から飛び立った。
夜闇の中で活発になる習性はコウモリには違いないが、ディーはダルクが召喚した創造生物なので厳密にはコウモリではない。
だから今まで一度も湯に浸からせたことはなくても、入浴も大丈夫なのだ。きっとたぶん。
「待て待て、そうはしゃぐな」
言うダルクも、内なる興奮を隠しきれない。
登山道に突如ひらけた解放感ある平地。
一帯はひときわ薄白い湯けむりに霞んでいた。
岩垣を寄せたり、一枚岩を砕いたりして設けられた露天風呂の数々。
温泉がコポコポ沸きだす音、温水がザーザー流れる音――活火山ならではの地鳴りも、ここに至っては心地よく感じる。
「圧巻だな……」
また夜も遅いというのに、予想以上に他の利用者も多かった。
人型、獣型、異形のモンスター、みな分け隔てなく入浴を楽しんでいた。
楽しげな笑い声、鳴き声や唄声、水しぶきの音が絶え間なく響きわたっている。
自分も早くあの渦中に飛び込みたい。
登山だけでなく、ここ数日で蓄積した見えない疲れごと、この汗水とともに洗い流したい。
「ええっとまずは……確か……」
以前この地に師匠と訪れたときは、実際にハダカになって湯船に浸かったわけではなかった。
外の世界がどのようなものか実物を示されつつ解説してもらっただけで、肝心の入浴は軽く髪を流しただけだった。
なので実際に入浴するのもこれが初体験。ダルクが今回とくに舞い上がる理由の一つだ。
「えーと……どうするんだったかな……」
それはそうと、ここでの風呂の入り方もきちんと教わったはずだが。
まず脱衣を何とかするには――
周囲の人型モンスターは全員男。
惜しげもなく屈強な裸体を見せつけるようにうろついている。
気が滅入っている場合ではない、彼らの衣服と所持品はどこに。
湯船間を移動する彼らを注意して見ると、みな一様に何かを――。
「……そうだ思い出したぞっ。ディー、ちょっと人を探してきてくれ」
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