187:1(ストック終)[sage saga]
2010/09/15(水) 17:14:02.96 ID:T3JLIYMo
――壺魔人がいる温泉地帯のおよそ裏方面。
表とはうって変わって閑けさが広がっており、温泉の数も指折るほどしかない。
そんな取り残されたような露天温泉の一隅に、唯一の先客がいた。
特にこだわりのなさそうな髪型で、灼熱のような赤を帯びた頭髪。
見るからに負けん気の強そうな凛々しい面構え。
その凛々しい面構えで、自分の胸元へと目を向けていた『彼女』は、
「ふー」
不意に視線を中空へ反らすと、短い溜め息を漏らした。
「高望みはしねーんだけどな」
彼女は、身体発育の乏しい女性にありがちな一抹の悩みを抱えていた。
口に出した通り、決して高望みはしない。
しかし女として生まれた以上、せめて平均水準くらいは。せめて。
やっぱり身体を鍛えた代償だろうか。
しかしいつまで経っても腕は細いし腹筋もつかず、外見は幼いオンナノコのまま。
だったらせめて見栄えのいい大人な女らしくありたいところだが――
「はー」
目を落とし、目を反らす。結局これ。中途半端。
そりゃあまぁ、何よりも強さを追求する自分にとっては全く杞憂な話。
でも自分だって年頃の女だ、相応のルックスだって求めていいじゃないか。
というわけでカッコいい女を強調するために、最近露出の多い服装にイメージチェンジしてみた。
ところが集まったのは魅力を称える注目というより、下衆共のいやらしい視線。
どいつもこいつも腐れてるもんだから、どいつもこいつも焼却してやった。
今日だってどこのウマの骨かもわかんねー癖に、悪びれもなく肩に触りやがって「お 茶 し な い か」だぁ?
おかげで特訓に使う分の魔力まで使い果たしてしまったじゃねーか!
あー思い出しただけでも腹が立つ! 次会ったら灰も残らねーほど燃やして燃やしつくしてやるあのタコっ!
「お、おっといけねー」
また湯気を増やしてしまった。あんまり熱くなり過ぎると、また蒸発させかねない。
熱くなったついでか、頭も少しフラついてきた。そういえば湯に浸かり始めてもう結構経つ。
「そろそろ上がるか……」
彼女は座り込んだ姿勢から、つやっぽい水音とともにゆっくり立ち上がった。
そのまま、着替えを詰めている壺・愛用の杖を置いてある水際の方へと体を向ける。
――という刹那だった。
「あ?」
どこのウマの骨かも分からない男と目が合ってしまった。
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