227:1[sage saga]
2010/10/02(土) 15:33:26.33 ID:f7bOuCY0
ダルクがやっとの思いで危険な裏道を抜けてからつかの間、視界の左。
とつぜん湯水が零れ落ちる音とともに、誰かが立ち上がるシルエットが捉えられた。
「あ?」
いぶかしがる声。
ほんの十歩先の怪訝な顔。
水玉がとめどなくしたたっている、一糸まとわぬ……全裸。
杖も持っていないし使い魔もいなかったが、赤髪の印象から一目で当の火霊使いだと分かった。
湯けむりでよく分かりづらいが……どうやら思っていたよりも…………
ずっと痩せてる?
「あ……え……えっ?」
先に硬直を解いたのは火霊使いだった。
『彼』はなぜか狼狽したような反応を見せると――
「な、なっ!?」
次の瞬間、一気に湯船に沈んだ。静かな露天の空間に場違いの水音が響き渡る。
ダルクは相手の急なアクションに思わず一、二歩退き、つまずきかけた。
使い魔ディーも驚いてパタパタ飛び上がって旋回し、場の雰囲気は一時騒然となった。
「お、おいディー! 大人しくしろっ」
と命じればすぐ大人しく肩にとまってくれるのがダルクの使い魔の魅力。
とにかく目を戻したときには、『彼』はあたま半分沈むまで小さくなっていた。
どういう意図かこちらとは全く逆の方に顔を向けている。プカリと水面から浮き出た赤髪……。
(こいつが……火霊使い……)
『彼』の風体は半ばイメージ通りだったが、なにか腑に落ちないものがあった。
体格はやはり小柄。それどころか目に焼きついた先刻の映像ではやたらと華奢だった気がする。
それに目が合った限りでは、顔つきはどちらかといえばイカツイというよりもキレイな印象を受けた。
頭髪はくどくない程度の明色系の赤で、ヘアスタイルはボリュームのある活発そうなカット――。
確かに壺魔人の言うように男らしいといえばなるほどそういう見解もできようが……しかしこの違和感は……。
(この反応だな)
ダルクは一直線に考える。おそらく自分の最初の推察は当たっていたのだ。
自らの体格にコンプレックスを抱いているがゆえ、誰にも肢体の輪郭を見られたくないのだ。
たとえ相手が、同じくらいひょっちい身体である自分だったとしても!
自分と似た者同士?
いやこの恥ずかしがりようからして、メンタル面ではこちらに分があるくらいだ。
もしかしてなにも構えるまでもなく、実は予想以上に打ち解けやすい相手じゃないのか……?
ダルクはふっと口元を緩ませると、悠々とブーツを脱ぎ始めた。
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