過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
1- 20
296:1[sage saga]
2011/01/08(土) 02:48:30.48 ID:m4YeYXQo
「……うう……」

 ――火霊使いの少女は入浴状態のまま、湯船を縁どる岩の一つに覆いかぶさっていた。
 下賎な輩が完全にいなくなったのを見届けても、頭がガンガンして満足に立ち上がることも叶わない。

「あのヤローのせいで……こんな……こんな……」

 呼吸を整えながら悪態をつく彼女だが、実際のところ自業自得である。
 自分が勝手に暴走して温泉を煮えたぎらせ、自分で勝手にのぼせただけの間の抜けた話。

 しかし彼女にとって全ての元凶はあの黒髪男だった。
 いきなり現れて自分の裸体を直視し、あろうことか同じ温泉に入ってきたあの不埒な下衆野郎。
 思い出すにつれ、彼女の心中までも憤りが沸々と煮えたぎってくる。

 あの野郎、名前はなんと言ったか。確か……ダルク……だったか。
 そう、自分で勝手に自己紹介始めやがってモヤシのくせにナンパ男が。
 いままで同じようになれなれしく自分に声かけてきた連中がどんな目に遭ってきたか――
 奴にももれなく思い知らさなければ気がすまない。
 
「フゥー……フゥー……」

 霊力の放出はとうに収めていたため、温泉は徐々にもとの湯加減を取り戻していった。
 また半身を露出して程よい風当たりも受けていたため、ずいぶん身体の熱も引いてきた。
 相変わらず酔いが回ったような鈍痛は引きずったままだが、コンディションはずいぶん楽になっている。

「よし……」

 風呂水を囲む岩々に手をつきながら、周辺を警戒しつつ内縁に沿って移動する。
 しかし気を張り巡らせても何者の気配もない。当然だ。
 この時間帯、この場所まで来るような客は気まぐれな有翼モンスターしかいない。
 ここに点在する温泉は表側の浴場地帯のそれとまったく変わらない。
 わざわざ切り立ったガケの細道を超えてまで、ここの湯に浸かりに来る利点がないのだ。
 だから絶好の入浴スポットだったのに。

「あの野郎がこんなところまで来るから……」

 本当に誰もいないかどうか4、5回確認して、ようやく風呂からその身を開放した。
 水場から肢体を引き上げる際のわずかな飛沫。その生々しい音。
 幾重にも流れる湯の筋が、彼女の白い身体をつややかに彩る。
 
「許せねー」

 少女の入浴という耽美な雰囲気を一気にぶち壊す険悪な声。
 先刻彼女を満たしていた羞恥心は、いまや完全に怒りに取って代わっていた。

 魔人の壺と自前の杖はすでに足元だった。
 しかし彼女は着替えより先に杖を引っつかんだ。力強くそれを握り締める。
 
「待ってろ……すぐに思い知らせてやるっ!」



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/501.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice