298:1(ストック終)[sage saga]
2011/01/08(土) 02:50:23.59 ID:m4YeYXQo
「はぁ……」
あの火霊使いの女の子は、炎属性ふさわしく非常に気性が激しかった。
『とっとと出ていけってんだ!!』
感情任せの猛りと同時に、前髪を焦がされた。
そんな子に今からノゾキ(?)の侘びに頭を下げに行くのだ。
ダルクの足取りが牛歩となるのも無理はなかった。
下手をすれば、並のヤケド以上は覚悟しなければならないだろう。
「気が滅入るな……」
しかし一方で、心の深い深い奥底では――もう一度あの子に会えるという期待も募っていた。
あの怜悧な目線。紅蓮の髪からこぼれ落ちる水滴。思い出すほどに鮮明になっていく華奢な身体――。
「だ、だから違うっ」
赤面させて首を振るダルク。
頭に乗っていたせいで唐突に振り回されるディー。
そんなこんなで、彼女がいた秘湯までの道のりを、半分ほど折り返したときだった。
ろくな前触れもなしに、事件は起こった。
いま手をついている岩壁の上から、何か音がする。と察知した瞬間。
「わっ」
という間に、使い魔のディーが攫われてしまった。
ダルクは、『それ』が起こした風圧を感じただけ。
有無を言わさない、一瞬の出来事。
「なっ!? おっ、おいっ!」
目の前の細道を、『それ』が駆けていく。
火の玉。
闇に慣れない者にとっては、高速の火の玉がディーを連れ去ったように見えただろう。
しかし夜目の利くダルクの眼には、『しっぽに炎を宿した四つ足のケモノ』の姿が映った。
それがディーを咥えていったようにしか見えなかった。
「まっ待て!」
追いかける。ディーの助けを求める羽ばたきが小さく聞こえる。
よ、よかったまだ食べられてはいないようだ。いやだったらなおさら急がねば!
遠目に疾走するケモノは突然、岩壁の方へ横っ飛びに跳ね、直進する細道から姿を消した。
小走りに追うダルクは目を疑った。この崖道は一本道だったはず……。
ようやくその地点まで追いついてみると、なんと岩肌に大きな裂け目が刻まれており、さらにその先へと道が続いていた。
火霊使いの女の子がいた場所から逸れてしまうが、ディーの身が懸かっている今はそれどころではない。
ためらいなくその裂け目へ飛び込む。新たに広がる視界に、火の玉が一瞬だけちらついた。
ダルクは、なんだか自分があのケモノに誘いこまれているような気がした。
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