356:1(ストック終)[sage saga]
2011/03/18(金) 02:28:49.20 ID:2p7vy702o
戦うと決めてからすぐさま今の機を逃さず、ダルクはまず杖に霊力を注いだ。
その途端、杖を中心に霧とも煙ともつかない『黒』が、にじむように吹き出し始めた。
「なんだ……?」
思わずこぼれたような訝しげな声で、彼女が警戒しているのが分かる。
その調子で不安がってくれるとありがたい。闇の本質は、容易な判別ができないことにある。
ダルクは押し黙ったまま、構えた格好で杖を握りしめるばかり。
『黒』はみるみるうちにダルクを覆い、まもなく頭のてっぺんからつま先までを完全に包み込んだ。
「何だってんだよ!」
ヒステリー気味に乱暴に振りかざされる杖。火霊術行使の動作。
重い音とともに流れるように飛んでいったのは、今まで飛ばした火球より何割増しか膨らんだファイヤー・ボール。
スピードが遅い代わりに火力と精度は高くなっており、今度は正確にダルクの身体があった位置を捉える!
対してしかし、『黒』からは何も。何も反応がない。
向かってくるファイヤー・ボールなど眼中にないかのように、『黒』はじわじわとそこに在った。
彼女の疑惑は一瞬で深まり、一抹の焦りが生じる。
(あ、あのヤロー直で受ける気か?)
しかし、一度自分の身体を離れた術はもう止まらない。
ファイヤー・ボールはためらいなく、『黒』の中へ飛び込んだ。
息を呑む彼女。不審がって数歩後退している使い魔。
だが――
「…………。…………。――――」
いくら待てども、何もない。
熱に耐えかねた悲鳴も、地面に何かが衝突するような音も、コゲたような臭いも。
何事もなかったかのように『黒』はただそこに存在している。
「な、なんだ……? なんなんだよ!」
立て続けにファイヤー・ボールを放つ彼女。
生物に当たれば確実に大ヤケドを引き起こす、危険な赤のかたまりが次々に飛んでいく。
しかし。その全ては、物音なく『黒』に飲み込まれていった。術がどうなったのか全く把握できない。
「あ、あの野郎……」
彼女はようやく周囲の変化に気づく。
いつの間にか『黒』は三方に伸びていた。それぞれコロッセウム内の石柱を辿っている。
奴はもうココにはいない。しかしコロッセウムから離脱していれば必ずコンが察する。
ということはつまり――奴はあの三本の石柱のどれかに隠れたのだ。
(……勝負だ……)
ダルクの暗黙の宣戦布告が、コロッセウム中に響き渡ったような気がした。
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