387:1[sage saga]
2011/04/09(土) 02:02:41.28 ID:/bmAxi7Vo
そのあと彼女は「隠れてないで出てきやがれ」「戦うなら正々堂々だろうが」
などと大声でわめいた挙げ句、「もうなんなんだよ!」と叫びながらメチャクチャにファイヤー・ボールを飛ばしてきた。
(うおっ! き、きたっ)
実はダルクは、この戦いでこの乱打が一番キツかった。
いかに目標が定まらない攻撃とはいえ、ダルクにとっては一発一発が大ダメージの炎の球。
果たして壺魔人の壺ひとつでしのぎきれるか? 放物線をえがいたりして自分に落ちてこないか?
真上を次々と飛び過ぎ、たまにすぐ脇に着弾するファイヤー・ボールの猛攻には、さすがに生きた心地がしなかった。
さらに『漆黒のトバリ』は光には弱い。
ファイヤー・ボールが一発通り過ぎるたびに、この闇のベールに穴が空いてしまう。
それをふさぐために、ダルクはひそかに全力で『漆黒のトバリ』を放出し続けていた。
術者の周囲なのでわりと余裕で補修は間に合うが、おかげで身動きが取れない。いま乗り込まれたら一巻の終わりだった。
やがて、どうにか一発ももらわずに静かになった。
攻撃がやんだかと思い少しだけ壺から頭を出すダルク。
瞬間、「ちくしょー!」と共に飛んできたダメ押しの一発!
避けるヒマもなかったが、幸いファイヤー・ボールは例によってすぐ真上を飛び抜けていった。
あ。あ。危なかった。頭のてっぺんが焦げてる。もう少しで断頭台の惨劇になるところだった……。
それにしてもこの無駄打ち……まさか作戦なのか?
何か狙いがあるとしたらまずい、まったく読めない。
周囲には、床にできあがった焦げ目の数以外の変化は、特になし。
放たれたファイヤー・ボールの数は、開幕前からカウントして全部ひっくるめるとおよそ15発。
無尽蔵か。ちっとも疲れる様子がないところを見ると、まだまだ余裕がありそうだ。
ひそかに霊力の浪費が一つの狙いだったが、この分では戦いに影響を及ぼすまでにはいかないだろう。
「くそ……仕方ねーな……」
イライラしながらも、ため息が交じったような声が聞こえた。
言葉の響きでようやく諦めてくれたと確信する。確信はすれど、
「おい、これで最後だ! 生き地獄に遭いたくなかったらとっとと出てきやがれ!!」
などと大声で続けられれば動転する。ダルクは慌てて壺の陰に身を縮め、息を殺した。
大丈夫だ、相手は自分がすでに遠くの柱に隠れたものと思い込んでいる。今は相手が先に動くのを待つべき。
自分は万が一のファイヤーボールに備え、身の回りの闇だけ濃くしていればいい――。
と。彼女が何かに話しかけているのが耳に入る。
ようやく使い魔のきつね火をけしかける気になったらしい。
正直、最初からその使い魔でこの位置を確かめにこられたらやりづらいなとは思っていた。
しかしそれはしなかったことを鑑みるに、さすがに未知の暗闇に自分の相棒を突っ込ませるのにも抵抗があったのだろう。
……いや、今のやりとりをみた限りでは、自分が熱くなりすぎて単に使い魔が目に入っていなかっただけなのでは?
一つのことに夢中になったとき、周囲が見えなくなる、か。
つけいる隙になりうるか? この戦いの中で試してみる価値はあるかもしれない。
ダルクは目の前に注意しつつ、ゆっくりと夜空を見上げた。
――よし、いける。
あとの段取りは、もはや七割がた決まったようなものだった。
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