432:1[sage saga]
2011/04/24(日) 15:32:55.34 ID:FZwCGDgSo
◆
「イやーいやほんとゴメンネ! ソれで、どうだっタ?」
ダルクが壺を返却したときの、壺魔人のニヤニヤ顔といったら恨めしかった。
この男(?)のタチの悪すぎる冗談のせいで、とんだ災難に遭ってしまった。
今回の騒動の元凶。そんな軽く謝られても、強張った顔はたやすく崩せない。
「確かに壺は返した。便利な壺だった。感謝する」
「ソーんな怒らなくていいでショ? オ陰でステキな出会いになったんじゃないノ?」
「主人、次に来るまでには冗談の加減を覚えてほしい。危うく殺されるところだった」
「ナニ、ハダカでも見たノ?」
一瞬言葉に詰まるダルク。
その反応をみて、いきなりずいっと身を乗り出す壺魔人。
「エ、ホントニ? ネ、どんなだっタ?」
「な、何がだ。なんでそんなことを訊く」
「ココらであのコのハダカを見れたヒトなんて、ほとんどいないんだヨ?」
「そっそれがどうした」
「アノコああ見えてすごく人気あるからサ、ホカのお客さんにたまに訊かれるのヨ」
「だからなんだ」
「オ金、出すヨ? ジョウホウリョー。ダカラさ、詳しい話きかせてヨ!」
それを聞いたダルクは一瞬、息を吸い――ギリギリで喉もとの言葉を押し殺す。
吸った空気をそのままため息に変え、同時に肩の力も抜く。
ダルクはくたびれ果てていた。ここで無駄な体力を使うのも馬鹿らしい。
「帰らせてもらう。今日はもう疲れたんだ」
「ネッ、ちょっとだけでも聞かせてヨ! イロつけちゃうヨ!!」
「さらばだ主人。壺と温泉は最高だった、また借りに来るときがくるだろう」
「アッ、ちょっと待ってヨ!!」
「ああそうだ、一つだけ」
帰りかけたダルクはもはや振り返らずに、人差し指だけ立てた。
「顔にエンナンの相が出ている。炎属性とはいえ、ある程度覚悟しておいた方がいい」
「エンナン? エ、ナンダッテ? ッププ!」
「そうだ炎難だ。じゃあまたな」
このあと風のウワサでは、年中無休のはずの壺魔人の店は、半月ほど謎の臨時休業を遂げたらしい。
ご愁傷様、これで悪ふざけも改めたことだろう。
ダルクは壺魔人の洞穴を出ると、まっすぐ帰路についた。
外敵避けに『うごめく影』をかけ、使い魔ディーとともにバーニング・ブラッドを下山。
帰り道は下り坂しかなかったため、行くときに比べて遥かに楽だった。
が、熱闘を一戦交えたダルクはほとんど口を開くことなく、絶えず憔悴した面持ちだった。
疲労が蓄積している。これではなんのために温泉に入ったのか分からない。
ヒータと出会うため? あんなことがあった彼女は、もうここには来ないのだろうか。
できたらもう一度会って、今度はちゃんと話をしてみたい。
あの風呂の件は、二人だけの秘密にして――
「うわっ!」
直後ダルクは小石にけつまづき前へつんのめった。
ディーのものいわぬ視線が、なんだか気恥ずかしかった。
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