488:1[sage saga]
2011/05/13(金) 16:14:55.05 ID:7lFnSfMFo
彼女は想像以上に強張った顔をしていた。
身をすくめ、胸の辺りを片腕で守るようにして露骨に退いている。
もう片方の手に握っているのは……杖? のように見えるが……。
とにかくこちらに対する警戒具合が半端ではない。
敵意をあらわにするというより、明らかに怖がっている。
(こ、これはまずい)
恐ろしい冷や汗がダルクの背筋をにじませる。
時は人通りのない真夜中。場所は闇を忌み嫌うという町。
そして自分は闇の世界で育った生粋たる闇属性。
極めつけに故意ではないとはいえ、先ほどはたらいた行為は――性的嫌がらせ。
今回はエリアやヒータに不埒をやらかした時とは違い、周囲には大勢の人々が眠っている。
この眼鏡の子に騒がれたらただでは済まない、一巻の終わりだ。
「すまないっ。わざとじゃないんだっ」
騒がれる前に先手をうつ。ダルクは反射的に頭を垂れていた。
事態が悪化してしまう前に、こちらに微塵も害意がなかったことをなんとか理解してもらう。
パニックになったダルクにはもうそれぐらいしか思いつかなかった。
「偶然杖がつまづいただけなんだ、どうか容赦して――」
「静かに。夜中です」
人差し指を立てながら、初めて女の子が口を開いた。
耳に触れたばかりでは、見かけ相応のアルトの声。
しかし非常に落ち着きがあり、知性の裏づけを感じさせるような重厚な声質でもあった。
「気をつけてください」
彼女は相手が無害と分かると、静かに杖を持ち直した。
あとは何事もなかったかのようにコートをひるがえし、そっけなく歩き去っていった。
呆然と立ち尽くし、彼女の後ろ姿を見送るダルク。
助かったのか。助かったようだ。とりあえず大事にならなくてよかった。
安堵のため息とともに胸をなでおろす。
コートに仕込んだディーの感触。いつでも飛び出せる状態だったらしい。いや大人しくしていてくれ。
(……あの子も魔法使い族なんだろうか)
使い魔こそいなかったが、あのコートや杖のデザインはまるで……。
またインナーの縦縞セーターといい、露出度の高い下半身といい、今まで出会った女の子に共通する部分もあるが……。
ついでに言えばムネは今までで一番ボリュームがあったような……いっいやそれは別に関係ないけども。
(……まさかな……)
きっと偶然だ。
これだけ大きな町だ、似たような風体の町娘が一人や二人いたとしても珍しくないだろう。
(よし、気持ちを切りかえて先に進むか)
時間だってそこまで余裕はない、朝が来る前には帰っておかなければ。
ダルクは食糧を購入すべく、街中の探索を再開した。
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