528:1[sage saga]
2011/05/27(金) 16:22:47.48 ID:DA0A8mtNo
室内の薄暗い照明が、盤上のコマに幻想的な影を落としている。
その雰囲気と一体になったかのごとく、卓についた二人の姿はぼんやりと浮かんでいるようにみえた。
「……ではゲームの準備が整ったところで、アンティの確認をしましょう。
あなたが勝ったなら、あなたの身の保全および町に関する情報提供を約束しましょう。
私が勝ったならその杖を貰い受けます、こじつけの類は認めません。以上で問題ありませんね」
「ああ、それでいい」
「では……始めましょうか」
ついに開幕。ダルクの先攻からスタート。
ダルクはまず、改めてボード上のコマを眺めた。
戦士や魔法使い、翼竜や岩石のモンスター――意匠の凝った人形がそろい踏みだ。
自分が今まで使ってきたコマと違って明るいカラーリングが施されており、ツヤもあって盤上によく映えている。
(……まさかこちらにきて三日目でチェスが楽しめるなんてな)
ダルクはチェスが大好きだった。
闇の世界での娯楽の大半は、師匠との一局だった。
霊術使いの半身ともいえる大切な杖が賭かったこの一局でさえ、ダルクは湧き上がる楽しさを抑え切れなかった。
「……どうしました?」
「いや」
アウスに促されるように、ダルクはすばやく右手を伸ばした。
手元のコマ『エルフの剣士』をつまみ、それを前方のマスへ打ち放つ。
これでターン終了。先攻1ターン目は、一度のメインフェイズしか与えられない。
着手が終わると、視界の左側で生じた急な動きに目がいった。
チェスクロックに当たる『命の砂時計』がこぼれ出したのだ。
以降は、交互に両脇の砂時計が削られていくことになる。
続いてアウスのターン。
小気味よく手元の『ルイーズ』、そして『エルフの剣士』を前進させる。
終盤に向けて時間を温存するために、その動作は早い。
また親指・人差し指・中指でつまむそのこなれた手つきには、相当の貫禄と年期を感じさせた。
(不足はない!)
ダルクも張り合うかのようにとんとん駒を進めていく。
こうして互いの応手は進み、序盤の駒組みは着々と展開されていった。
ゲーム開始から10ターンほど経過。
両者の差し手は早く、時間もあまり削られていない。
にも関わらず、このゲームではまだ一度も「攻撃」がなされていなかった。
前線の駒たちは、その剣先が触れ合うギリギリまで進むものの、そこから先の一歩は踏み出さない。
踏み込めばただちに開戦、熾烈な読み合いが開始される。
二人ともすぐにはそれを望まず、しばらく我慢比べが続く。
しかし局面が進むにつれ、双方の駒組みに明らかな違いが現れる。
アウスは徹底した守備。『岩石の巨兵』や『ホーリー・エルフ』でキング(アテム)を囲う。
カウンターの準備もほぼ仕上がっており、安易な攻め込みには厳しい逆襲、そしてその穴からの猛反撃も睨ませている。
対してダルクは――
(……この形は……?)
アウスは内心で首を傾げた。今まで見たことがない陣形だった。
セオリーにない、悪く言えば素人が指したかのようなバラバラの配置。
大駒の『ブラック・マジシャン』が味方のコマで塞がって完全に腐っており、機動力の高い『砦を守る翼竜』も意味不明な位置にいる。
(そんな隙だらけの構えで)
アウス陣営の守りはほぼ完成した。
対してダルクの布陣は一貫性がなく、数ヶ所に穴が点在している。なのにそれを修復しようともしない。
アウスはその弱点を放っておくはずもなく、次のターンで『ルイーズ』を進撃。ついに仕掛けていった。
(きたな)
奥の歯を舌でなぞるダルク。
ここからが本番だった。
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