530:1(To be continued.)[sage saga]
2011/05/27(金) 16:25:26.65 ID:DA0A8mtNo
ダルクは『エルフの剣士』を力強くつまむと、向きを変えて敵の『ルイーズ』の真横へと放った。
向きを変える行為は、隣接する敵への攻撃を示す。
初めてのバトルフェイズ。『エルフの剣士』で『ルイーズ』を攻撃。『ルイーズ』を破壊。
アウスは『ルイーズ』を取り上げると、ボードの外の『墓地』と呼ばれるゾーンに置いた。
破壊された駒は互いの墓地にたまっていくが、条件が整えば『魔法』で蘇生することもできる。
『魔法』を使用するには魔力カウンターの消費が必要であったりと、また別に細かいルールがある。
ダルクはメインフェイズ2で『砦を守る翼竜』を大きく移動させ、ターンを終了した。
攻撃をしたことにより、完全に戦いの火蓋は落とされた。
これから連鎖的に互いの攻撃が続き、深い読みとセンスが問われる中盤戦へと移行する。
――そのときだった。
「はぁい、お待たせ〜」
勝負熱がたぎる最中、出し抜けにエルフのお姉さんが卓の方に寄ってきた。
最初に案内してくれた金髪白肌のヒトだ。双子姉妹の妹の方。
優先された仕事が片付き、ようやくダルクの方まで順番が回ってきたらしい。
「ど、どうも」
「あらーアウスちゃんとやってるの? もちろんノーアンティよね?」
「いいえ、アンティはあります。手は緩めません」
「そうなの? ボク、かわいそうにねぇ。彼女、ここで一番強いのよ?」
「えっ?」
「今日は負けちゃうかもしれないけど、席料とグラス一杯サービスしちゃうから、また遊びにきてね♪」
「まだ私が勝つとは限りませんよ」
「んもう、アナタそんなこと言っていつも負かしちゃうでしょ。で、アウスちゃんは何か飲みたいものある?」
「レッド・ポーションのバニラを」
「はぁい。すぐ持ってくるからねぇ」
エルフのお姉さんはお色気たっぷりの動きでテーブルを離れていった。
ダルクは顔の近くにお姉さんの素肌があったものだから、恥ずかしくて目線をそらしっぱなしだった。
それを察したアウスはなんとなく面白くない。
「対局中ですよ、集中してください」
「あ、ああ」
「あのヒトは私はここでは一番強いと言いましたが、何も気にする必要はありません」
「いや気にするさ。というより俄然張り切ってきた」
「張り切る?」
「あぁ。全力でぶつかれる相手なんてあまりいないからな」
それを聞いたアウスはダルクの顔とボードを目線で往復し、彼は何を言っているのだろうと思った。
会話の中でも着手は進んでおり、そして盤上ではすでに明らかな優劣がついていた。
盤面中央はアウスの駒が制圧し、ダルク側のキング(ユウギ)の周りは手薄。
あともう一押しすれば一方的な展開となり、決着も近くなる。そんな形勢。
「見た目ほど簡単にはいかないぞ」
アウスは思わず目を上げた。心を読まれたような錯覚。いや、格好をつけたタイミングが合っただけ。
それに仮にそうだとしても、もはやこの局勢はどうしようもないだろう。
自分が今すぐダルク側を持てと言われても、とてもやれる気がしない。
「オレのターンだ」
ダルクはわずかに笑いながら少しだけ目を見開き、気合の手つきでコマをつまんだ。
メインフェイズ1で、『ブラック・マジシャン』を敵陣深く突入。
バトルフェイズで、投入したばかりの『ブラック・マジシャン』で『ホーリー・エルフ』を破壊。
さらにメインフェイズ2で『暗黒騎士ガイア』を敵陣深く突入。
ターンエンド。
アウスはわずかに口を開け……それはしばらく塞がらなかった。
なんという暴挙。滅茶苦茶だった。
場に一つずつしかない攻守最強の大ゴマ2体を、いきなり目の前に差し出しに来た。
こんなもの取ってしまえば勝負はついたも同然……。……。
「……これは……」
取れない。取らなければこちらが危ういのに、どちらを取ってもその後の展開が悪くなる。
気づけばそういう陣形にさせられていた。最初から狙われていたのだ。
こんな手は気づけなかった。いや、果たして見つけられる打ち手など他にいるのだろうか。
たった1ターンで、さっきまでとはまるで違う世界になってしまった。
今の二手には完全に痺れた。最善の受け手が分からない。
「……」
アウスは押し黙ったまま、テーブルに手をついてゆっくり立ち上がった。
唾をこくんと飲みこみ、盤面を見下ろす形で深い読みに入る。この対局で初めての長考。
高まりゆく緊張感。彼女のこめかみから、一筋の汗がじわりと垂れていった――。
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