548:1[sage saga]
2011/06/08(水) 15:47:05.99 ID:llwMLC1E0
「……」
アウスは立ち上がったまま数分間、凍りついたようにボードを眺めていた。
立ち上がった視点で盤を眺める行為は、視野を広げることで大局観を上げる意味がある。
これがなかなか使えるテクニックで、ダルクも難しい場面では稀にやったりする。
そのダルクも同じように盤面を注視していたが、すでに後のヨミは整っていた。
アウスがブラマジ(ブラックマジシャン)を取るなら、(暗黒騎士)ガイアの睨みを利かせたまま、他の駒で敵の攻めを崩落させる。
ガイアを取るなら、ブラマジでキングの守りに致命傷を与えて離脱する。
もちろんアウス側もそんな思惑は分かりきっているだろうが、もはやこのターンでは二つの駒のいずれかを取るぐらいしかない。
ダルクはそのどちらの展開でも勝ちに行ける手格好で、勝勢とは言いきれずとも優勢であることは揺るぎかった。
「……」
やがてダルクは肩の力を緩めた。いくばくか余裕をもって相手の着手を待つ。
対局に集中していないわけではないが、局面が進まなければ先々のヨミが難しい。
チェスプレイヤーのダルクは、その場その場での局面で臨機応変に立ち回るオールラウンダーなのだ。
「…………」
それにしても長い。まったく場が動かない。
周囲では相変わらず幾多の対局が火花を散らしているというのに、まるでここだけ時間が止まっているかのようだ。
脇の砂時計にちらりと目をやる。とうに5分が経過していた。
最初に与えられた持ち時間のうちの半分以上、ということは必然これが最長考慮時間だ。
(……本当に考え込んでいるのか?)
痺れを切らし始めたダルクは、ひっそりアウスの方へ視線を向けた。
首を動かさない状態での目線移動は、どう頑張っても彼女の胸の辺りが限界だった。
表情のほどは窺えないが、呼吸の微動とともに確かな存在感を受ける。目下熟考中か。
……胸。
いけないと思いつつも目が引きつけられてしまう、たわわに実った胸。
間近で見てみると、緑の縦しまセーターのミゾ辺りに広い影をつくっているのが分かる。
落ち着いた服装や地味な色合いに隠れているが……これは想像以上に大きい。彼女はどうも着やせする体質のようだ。
コクンと唾を飲むダルク。
ダルクだって年頃の健全な男子。女の子に抵抗こそあれ、けっして興味がないわけではない。
先刻は不可抗力とはいえ、目の前にあるこのムネに顔面からディープ・ダイブしてしまった。
厚い衣服を通して鮮烈に伝わった、ふわふわのやわらかい弾力が想い起こされる。
そう、ふわふわだった。触れたものを母性豊かにやさしく押し返す、ふわふわのマシュマロン――。
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