過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
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550:1[sage saga]
2011/06/08(水) 15:50:54.18 ID:llwMLC1Eo
「失礼しました」

 突如上から降りかかるアウスの声。
 ダルクは心臓が飛び上がる思いで急遽ごまかすように身じろぎ、全力で言い訳を考え始めた。
 幸いにも次にアウスが口にした言葉は、「いまどこを見ていたのですか」ではなく、「これでターン終了です」だった。
 彼女は駒の移動を終えると、静かに着席した。もう立ち上がる気配はないように思える。

 ダルクはハッと盤上に意識を戻し、すばやくアウスの応手を確認した。
 同時にこのターンにバトルフェイズがなかったことに気づく。ということは。

(まさか)

 ダルクのブラックマジシャン、そして暗黒騎士ガイアは、依然堂々とアウスの陣地にのさばっていた。
 さきほど突入させた大駒二丁が両方とも取られていない。まさか、それでやれるのか。

 今度はダルクが意表をつかれた形だった。
 アウスは敵の駒、それも一騎当千の強力な駒を二つも自陣に踏み込ませたまま、ダルクにターンを明け渡したのだった。

 その代わり自分が攻めに使っていた大駒を、自分のキングである『アテム』の元まで引き上げている。
 そんなことをしたら中央のアウスの陣形は大きく崩れてしまうが、もちろんそれを承知の上で守りを固めにきたようだ。

 さすがに時間をかけただけのことはある。一見気弱な防衛策にみえるが、これが逆。
 並ならぬヨミと度胸がなければ、踏み込まれた駒を看過するなど普通はできない。
 このゲームにおいて自陣に侵入した敵を放置するときは、互いが互いのキングに迫り寄る「攻め合い」のときぐらいしかない。
 一回の手番のうちに移動→攻撃ができるので、単騎で陣地を破った駒などは即座に駆逐されてしまうのだ。

 だがアウスはその流れを汲まなかった。
 執拗なまでに守備に徹し、盤を通して「どうぞ攻められるものなら攻めてください」とダルクに言ってのけたのだった。
 
「面白い」

 ダルクは素直な本心を口にした。
 エルフのお姉さんによると、アウスはこの店で最強の腕前らしい。
 それも絶対数が少ない『受け』のスタイルでの実力者だ。
 鉄壁を敷いて相手の攻めをとことん受けきり、攻め手を切れさせたところで猛反撃して勝ちを拾いにいく棋風だ。
 彼女は今までは教本どおりのオーソドックスな戦い方だったが、ここにきて本領を発揮してきたということだ。

 面白い、俄然面白い。
 『詰み』を探すパズルはダルクの得意とするところで、それを実戦で提示されたら燃えずにはいられない。
 果たして自分の実力でその牙城を打ち破れるかどうか! 間違いなくここが勝負の佳境だ。

 ダルクはあまり時間をかけずに駒をつまむと、早く戦いの行く末を知りたいと言わんばかりに力強く打ちはなった。




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